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高齢者医療の現場で活躍する和田秀樹医師は 80歳以上を「幸齢者」と呼ぶよう提案しています。

書籍の帯コピー「シリーズ累計80万部突破!」に誘われ、買い求めた「80歳の壁」(幻冬舎新書)。著者は約35年、高齢者医療の現場に携わっている精神科の和田秀樹医師。日本では65歳以上を高齢者、75歳以上を後期高齢者と称していますが、和田医師は「高齢者も後期も、なんだか言葉の響きが寂しくありませんか。ここまで頑張って生きてきたのですから、もっと明るくて希望の持てる呼び方にすべき」として、80歳を超えた人を「幸齢者(こうれいしゃ)」と呼ぶよう提案しています。

和田医師は高齢者専門の病院に勤務していた当時、毎年100人ほどのご遺体の解剖に携わったそうです。その結果、本人や家族が自覚しない病巣があり、それが原因で亡くなっていたとみられる事例が少なくないことが判明。85歳を過ぎるとほとんどにがんが見つかるそうで、「本人が気付かないがんもあるし、生活に支障のないがんもあるのだと教えてくれている」と。ゆえに和田医師は「80歳を過ぎたら我慢をしないという生き方」が大切だと記しています。

さまざまな壁を乗り越える術として「闘病でなく『共病』で」「臓器別診断の弊害。幸齢者はトータルで健康を考えよ」とし、老化の壁を超えるため「年を取ると感動が薄れる。衰えではなく経験知が上がったのです」「昔との引き算で考えない。差を考えると不幸になる」と発想の転換を促します。

このご時世、図書館や書店には超高齢社会を生き抜く術を論じた書がたくさん並んでいます。断定的な歯切れのいい独自の見解には専門家や庶民の受け止めはさまざまでしょうが、私は選書しながら“目からうろこ”の刺激を受けています。

アイドルはびっくり、10代で寿命

寿命を巡るブラックジョークを一つ。楽屋にあいさつに来た10代のアイドルに、大御所タレントが「あなた、縄文や弥生時代ならもうすぐ寿命よ。時間を大切に頑張りなさい」と励ましたとか。

諸説あるようですが、古墳時代ごろの日本人の平均寿命は20歳前後だったそうです。江戸時代は30歳代で、50歳代まで伸びたのは昭和に入ってから。厚生労働省のデータによると1947年(昭和22年)に50歳だった男性の平均寿命は平成になる直前の86年に75歳となり、約40年で一気に25歳も延びました。

昨年7月に発表された直近のデータでは、日本人の平均寿命は男性81歳、女性は87歳。国際比較では、男性はスイス、スウェーデン、オールトラリアに次いで4位、女性は首位(2位は韓国、3位スペイン)でした。

さて、国際政治の最前線、とりわけ国の指導者については高齢者を幸齢者と言い換えることに少したじろぎ、考えさせられることがあります。

まず、米国大統領。今年11月の大統領選で再対決が確実視されているバイデン大統領(81)とトランプ前大統領(77)は、既に米国人男性の平均寿命73歳(2021年時点)を上回っています。米国憲法は大統領の任期を2期8年と規定し、バイデン氏が再選されてもトランプ氏が返り咲いても、ともに4年しか在任できません。それでも、2人には失言や勘違い、思い込みが散見されるとの報道が続いています。世界の平和と安定に重要な役割を果たす超大国の指導者として、その職務の過酷さ故に年齢条件を考慮せざるを得ません。

プーチン大統領は「98歳」まで!?

さらにロシア。ウラジーミル・プーチン氏(71)が通算5選を決めたばかりです。大義なき戦争として歴史に記録されていくに違いない「ウクライナ侵略」の首謀者は、支援者に向け「選挙結果は国民の信頼であり、我々が全てを計画通りに実行するということへの国民の希望だ」と強弁しました。

前回18年のロシア大統領選は連続3選を禁じる憲法下で実施され、再選されたプーチン氏は最後の任期に入りました。しかし、プーチン氏は20年に憲法改正を主導し、自らを特別扱いする「大統領経験者に対する特例」を設けて自身のさらなる出馬を可能にしたのです。

6年後の次期大統領選で再選されれば、最長で36年まで政権の座にとどまることが可能。ロシア男性の平均寿命は66歳(20年時点、厚労省データ)で日本人男性に比べ15歳も短い。現在71歳のプーチン大統領が仮にあと2期12年大統領職にあるとすると、最終年ではロシア人男性の平均寿命より17歳も上回る計算です。日本人男性の平均寿命になぞらえれば98歳! 20年のロシア憲法改正が「プーチン氏を事実上の終身大統領に信任した」とされるのはこのためです。

国際政治学者のイアン・ブレマー氏は国際政治の喫緊のリスクに権威主義国家の指導体制を挙げ、「彼らの行動には監視も専門家の関与もチェック・アンド・バランスも存在しない」と断じました。国家指導者は総じて長寿。裏返せば「やりたい放題」の人は長生きするのでしょうか。ここは、和田医師が記した「幸齢者」として過ごすためのヒントにちょっと通じています。「昨日言ったことを今日ひっくり返してもいい。持論を曲げてもいい。生き方だって変えていい。そう人の方が、柳に風のしなやかな生き方ができる」


中島 忠男(なかじま・ただお)=SBSプロモーション常務
1962年焼津市生まれ。86年静岡新聞入社。社会部で司法や教育委員会を取材。共同通信社に出向し文部科学省、総務省を担当。清水支局長を務め政治部へ。川勝平太知事を初当選時から取材し、政治部長、論説委員長を経て定年を迎え、2023年6月から現職。

静岡新聞SBS有志による、”完全個人発信型コンテンツ”。既存の新聞・テレビ・ラジオでは報道しないネタから、偏愛する◯◯の話まで、ノンジャンルで取り上げます。読んでおくと、いつか何かの役に立つ……かも、しれません。お暇つぶしにどうぞ!

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