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エスカレートするリアクションが見物!料理アニメの原点『ミスター味っ子』

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は料理アニメの原点ともいえる『ミスター味っ子』についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

後のアニメ漫画に影響を与える名作

料理漫画というジャンルは1970年代から存在しています。極初期の代表的作品は『包丁人味平』(原作:牛次郎、漫画:ビッグ錠)。ジャンプ漫画だったので、料理バトルというアイデアが持ち込まれていて、今あるバトルタイプの料理漫画はここから始まっているといってもいいと思います。『ミスター味っ子』もその流れに位置する作品ですね。

『ミスター味っ子』は寺沢大介先生原作。1986年から少年マガジンで連載され、87年にガンダムなどで知られるサンライズ(現:バンダイナムコフィルムワークス)によってアニメ化されました。

味吉陽一という高校生が母と2人で日之出食堂という食堂をやっているのですが、味皇という料理界のトップと出会ったことで、さまざまな料理人と勝負をしていくことになるというのが大まかな流れです。この作品がアニメ化され、アニメで“盛られた”部分が後の料理アニメや漫画に影響を与えていきます。

何が“盛られた”かというと「リアクションのデカさ」です。つまり、おいしいものを食べたときに、食べた人がどんどん極端な表現をしていく、映像も大げさにそれを描くというのを、初めてやった作品なのです。

エスカレートするおいしさのリアクション

最初は、味皇が日之出食堂へ行ってカツ丼を食べたシーンで、普通に「うまいぞ」と言い、カメラが口の中に入るくらいのリアクションなのですが、だんだんエスカレートしていきます。

第20話のお茶漬けを食べるシーンだと、春の雰囲気が演出で入ってきます。丼から桜の木が生えてきて桜の花が散るんですよ。その後、桜並木の中を味皇が座ったまま空中浮遊して飛んでいく。こうなってくると演出家のアイデア勝負ですね。

第23話のシーフードカレーの回でおいしさを表現するシーンでは、時代劇に出てくる奉行所のお白州で遠山の金さんみたいに片肌を脱ぐと、海とサザエの刺青が入っていて、シーフードカレーの解説が始まるという感じでした。

第26話から28話までは大阪編で、なにわの丼兄弟とカレー丼で対決するエピソードが描かれるのですが、第28話ではカレー丼を食べた味皇が巨大化して大阪城の中に入り、城から手足が生えます。ここは有名なシーンですね。僕は当時、久々にオンエアを見たらこの話数だったんですが、「ここまで極端になっとったんや!」と思いました(笑)。

そんな感じでどんどんエスカレートして表現するというのが、後の『焼きたて!!ジャぱん』や『食戟のソーマ』に受け継がれています。『焼きたて!!ジャぱん』は、作中でどういうリアクションを引き出すかみたいな話もしていて、リアクションがすでに前提になっています。

ちなみに味皇を演じた声優の藤本譲さんは、巨大化して大阪城から手足が生えるとき、アフレコ現場で「何をさせようとしてんだ」と言ったらしいです。それくらいインパクトがあったんですね。役者さん的には感動させたいのか心を動かしたいのか、おいしさを伝えたいのかというときに、「巨大化です!」と言われても、笑わせたいのか?と戸惑ったんだと思います。

第1話の時点で、原作よりだいぶ大げな表現になっていたので、原作の寺沢先生が試写を観に来たとき、周りの人は先生の顔色を非常に気にしたそうです。でも寺沢先生は結構面白がっていて、先生がその後描かれる『将太の寿司』も(ここまで極端ではないですが)割とリアクションがポイントになっていました。『ミスター味っ子』は、こんなふうに料理漫画でもリアクションを極端にすると面白いんだという発見をアニメ作品にもたらしたのでした。

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