裏金問題 首相「国民の判断」 早期解散へ野党攻勢 与党、支持回復に悲観

 野党から早期の衆院解散論が相次いでいる。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の一斉処分を受け、岸田文雄首相が「国民の判断」に言及したためだ。内閣支持率の低迷にあえぐ首相の下での総選挙ならば、勝機は十分あると見込む。一方、与党には政権浮揚へ悲観的な見方が広がる。首相が解散を判断するのは容易ではなさそうだ。

衆院解散を巡る主な発言
衆院解散を巡る主な発言


 「自民にはもはや政権運営の資格も能力もない。解散して信を問うのは当然だ」。7日、立憲民主党の泉健太代表は、衆院島根1区補欠選挙の応援のために入った島根県出雲市で、記者団を前に語気を強めた。

 「6月会期末だ」
 泉氏の発言を誘発したのは、記者団と首相による4日の質疑応答だ。裏金事件の処分を免れた自身の責任に関し、首相は政治改革を完遂した上で「国民や党員に判断していただく」と述べた。これが6月23日に会期末を迎える今国会中の解散をにおわせたと受け止められ、波紋が広がった。日本維新の会の馬場伸幸代表は「すぐに信を問うてもらいたい」と強調。共産党の田村智子委員長も「通常国会の論戦を行う中で解散に追い込む」と気勢を上げる。
 野党が早期解散を迫る背景には、このまま衆院選に突っ込めば、自民が大幅に議席を減らすとの見立てがある。自民を過半数割れに追い込みたい立民関係者は「岸田首相のままの方が戦いやすい。9月の自民総裁選前なら6月の会期末しかない」と予測する。
 ただ4月の衆院3補選のうち、自民が唯一公認候補を立てる島根1区で敗北すれば、自民内で首相の責任論が浮上し「岸田降ろし」が始まりかねない。立民幹部は皮肉まじりに語る。「それはそれで野党にとって良くない展開だ」

 「すぐは無理」
 対する与党。自民の片山さつき政調会長代理は7日のフジテレビ番組で、首相発言を早期解散論に結び付け「その覚悟で官邸がいろいろな政策を組み立てているように感じる」と評した。もっとも早期解散を推す声は乏しく、自民重鎮は「逆風はすぐにやまない。解散は無理だ」と説く。
 とりわけ自民との共倒れを懸念する公明党はブレーキ役に躍起だ。石井啓一幹事長は3月、解散時期について「9月の自民総裁選で選ばれた総裁は非常に支持率が高くなる。その後の秋が一番可能性が高い」と踏み込んだ。その後は「一般的な感覚を申し上げた」と釈明したものの、官邸筋は「本音だろう」とみる。
 浮かんでは消え、消えては浮かぶを繰り返す解散観測。首相は総裁再選をにらみ、米国に向かう政府専用機の中で立て直しのシナリオを描けるのか。首相周辺は苦境を見て取り、ため息をつく。「まだまだ土砂降りが続きますよ」

立民、現実路線模索 経済安保、防衛で民意意識  立憲民主党が自民党派閥の裏金事件で岸田政権と対峙(たいじ)する一方、経済安全保障や防衛といった政策テーマでは現実路線へのシフトを模索している。次期衆院選を見据え「反対一辺倒」と見られれば政権担当能力に疑問符が付き、民意を得られないとの判断がある。ただ党内には「与党との違いが見えづらくなる」と懸念する声も少なくない。
 立民は9日の衆院本会議で、今国会の重要法案の一つ「重要経済安保情報保護・活用法案」に賛成する方針だ。機密情報の取り扱いを国が認めた人に限定する制度に「国家権力が暴走する足掛かりになりかねない」との批判もあったが、国会監視を盛り込む修正に与党が応じたことを評価した。重鎮は「政権獲得への色気から安保に対する意識が高まり、まとまることができた」と明かす。
 泉健太代表は、党の立ち位置を「現実政党」と説明する。外国特派員協会では「ステレオタイプな与党と野党の二項対立は捨ててほしい。現実は現実として受け止める」と訴えた。岡田克也幹事長も「もっと真ん中にせり出していかないといけない」と同調する。保守層や無党派層への支持拡大が念頭にある。
 他の案件でも同様の対応を取る。共同開発する次期戦闘機の第三国輸出解禁に対し、辻元清美代表代行が「人を殺す武器を売る国にしたいのか」と国会で追及しながら、党見解は「国の在り方の根幹に関わる。十分な国会審議が必要」と反対までは踏み込まなかった。
 離婚後の共同親権を導入する民法などの改正案は、虐待やドメスティックバイオレンス(DV)を見逃す恐れから慎重論が根強いものの「反対ありき」とはせず、自民に修正協議を要求。結果次第で賛否を決める。

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