事故風化防止へ、語る責務 知床観光船、家族会の共同代表

 北海道・知床沖で2022年、観光船が沈没した事故で、乗客家族会の共同代表を務める神奈川県の社会福祉士工藤裕也さん(42)が22日までに共同通信の取材に応じ、事故の風化に懸念を示し「話していくことが自分の責務だと考えている」と語った。事故は23日で発生から2年となる。

取材に応じる乗客家族会共同代表の工藤裕也さん
取材に応じる乗客家族会共同代表の工藤裕也さん

 事故では乗客乗員20人が死亡、6人が行方不明となっている。工藤さんは、北海道十勝地方に住む1歳上の姉と当時7歳のおいが見つかっていない。工藤さんがそのことを知ったのは、事故から3カ月がたったころに届いた、弁護士から母親宛ての通知でだった。
 海上保安庁は、行方不明者の氏名を公表していない。娘が巻き込まれたことをようやく知った母親は、しばらく言葉を失い、通知を何度も読み返して涙を流した。
 工藤さんは、2歳ごろに生き別れになったため記憶はない。ショックは受けたが、どこか冷静だった。それでも事故1年となった昨年4月23日に合わせて初めて知床を訪れ、追悼式に出ると「今からつくれる姉との関係があるのではないか」と感じた。
 姉の元夫から写真を見せられたり話を聞いたりして、姉が育んだ大切な時間があったことも実感した。地方公務員だった経験があり、国や出港地の斜里町などとの協議で、それぞれをつなぐ役目が果たせると考え、家族会の代表となった。
 運航会社の桂田精一社長(60)に対する捜査の進捗は聞かされていない。桂田氏からはいまだ謝罪もなく、家族に向き合おうとしていないと感じる。不安や怒りは募るが「感情だけでは前に進まないこともある」。状況を整理する冷静さを保つことが役割だと自らに言い聞かせている。
 今年1月、姉について、法律上亡くなったものとする「認定死亡」の申請が受理された。「希望を残したい」と苦しい思いはあったが、他の遺族らとともに近く予定する、桂田氏に対する損害賠償請求訴訟に参加するつもりだ。
 今、心に浮かぶのは、事故を風化させてはならないとの強い思いだ。自身の名前と顔を明らかにし、初めてメディアの取材に応じた。「姉がいたから自分のやるべきことが見えてくる。見守ってくれていると思う」

 知床観光船沈没事故 北海道・知床沖で2022年4月23日、観光船「KAZU 1(カズワン)」が沈没、乗客乗員20人が死亡し、6人が行方不明になった。運輸安全委員会が23年9月に公表した報告書によると、船首付近のハッチが確実に閉鎖されずに出航し、悪天候でふたが開いて浸水したのが原因だった。事故3日前には日本小型船舶検査機構(JCI)が船体を検査していたが不具合を見抜けないなど、国などによる監査や検査の実効性不足も問題視された。第1管区海上保安本部(小樽)が業務上過失致死容疑で捜査している。

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