核心核論(4月27日)年金制度改革 十分な移行期間不可欠

 日本の公的年金は、しばしば「逃げ水」だとやゆされてきた。厚生年金の支給開始年齢が徐々に引き上げられたためだ。
 かつて厚生年金は60歳から受け取ることができた。段階的に65歳へと引き上げると決めたのは30年前、1994年の制度改正だ。といっても、この改正で対象としたのは2階建ての年金制度の1階に当たる「定額部分」に限られた。
 2階の「報酬比例部分」について見直しに着手したのは2000年改正。四半世紀近くが過ぎたが、65歳への引き上げはまだ完了していない。男性では25年度、女性は30年度となる。制度の移行に数十年もの期間を要するのは、受け取り年齢の急激な変更を避ける配慮である。国民にとって年金は老後生活の頼みの綱だからだ。
 今年夏には、年金財政の長期見通しを点検する「財政検証」が行われ、その結果を基に次の制度改正議論が本格化する。
 厚生労働省の審議会では、国民年金の保険料拠出期間を現行の40年間から45年間に延長したり、遺族厚生年金や配偶者加給年金の仕組みを見直したりといった課題が既に挙がっている。専業主婦ら「第3号被保険者」制度を抜本的に改めるべきだとの意見も出ている。これらの課題を解決するにしても、制度変更には支給開始年齢引き上げと同様、十分な移行期間を設ける工夫が欠かせないだろう。
 広辞苑によると「逃げ水」とは「蜃気楼[しんきろう]の一種。舗装道路や草原などで遠くに水があるように見え、近づくと逃げてしまう現象」とされる。
 少子高齢化で年金制度の先行きを危ぶむ声もあるが、制度改革が将来の年金給付水準の向上につながるなら歓迎したい。ただし改革がかけ声だけで、逃げ水になるようでは困る。

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