【東日本大震災13年】消えゆく歴史、拾い集めて 原発被災地、住民つなぐ 市町村内「大字」の足跡

 2011年の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で被災した福島県沿岸部で、除染解体工事で失われつつある史料を歴史学者が拾い集め、市町村内の区画「大字」単位の地域史を編さんしている。生活圏の根にある足跡を掘り起こし、住民らと語らう営みが、故郷の喪失や変容に傷つく人々の心を結び付けていく。

調査のため福島県浪江町の寺院を訪れた国文学研究資料館教授の西村慎太郎さん=1月
調査のため福島県浪江町の寺院を訪れた国文学研究資料館教授の西村慎太郎さん=1月
福島県浪江町の住宅で古文書を撮影する国文学研究資料館教授の西村慎太郎さん=1月
福島県浪江町の住宅で古文書を撮影する国文学研究資料館教授の西村慎太郎さん=1月
福島県浪江町の住宅で古文書を調査する国文学研究資料館教授の西村慎太郎さん(左手前)と歌人三原由起子さん(右)=1月
福島県浪江町の住宅で古文書を調査する国文学研究資料館教授の西村慎太郎さん(左手前)と歌人三原由起子さん(右)=1月
調査報告会で話す国文学研究資料館教授の西村慎太郎さん(奥中央)=2月下旬、福島県浪江町
調査報告会で話す国文学研究資料館教授の西村慎太郎さん(奥中央)=2月下旬、福島県浪江町
調査報告会で明治時代の町の絵図を見る参加者ら=2月下旬、福島県浪江町
調査報告会で明治時代の町の絵図を見る参加者ら=2月下旬、福島県浪江町
福島県浪江町、権現堂、両竹、双葉町、福島第1原発
福島県浪江町、権現堂、両竹、双葉町、福島第1原発
調査のため福島県浪江町の寺院を訪れた国文学研究資料館教授の西村慎太郎さん=1月
福島県浪江町の住宅で古文書を撮影する国文学研究資料館教授の西村慎太郎さん=1月
福島県浪江町の住宅で古文書を調査する国文学研究資料館教授の西村慎太郎さん(左手前)と歌人三原由起子さん(右)=1月
調査報告会で話す国文学研究資料館教授の西村慎太郎さん(奥中央)=2月下旬、福島県浪江町
調査報告会で明治時代の町の絵図を見る参加者ら=2月下旬、福島県浪江町
福島県浪江町、権現堂、両竹、双葉町、福島第1原発

 国文学研究資料館教授の西村慎太郎さん(49)は、福島県双葉町と浪江町にまたがる「両竹」や、浪江町の「権現堂」の「大字誌」に携わる。震災後、岩手県釜石市の被災公文書の救出を担い、茨城大を拠点に修復作業を行った。両竹出身の茨城大生から、実家の古文書の扱いについて相談を受け、目録の作成を手伝った。
 両竹は県の復興祈念公園の整備予定地。古文書を読み込むうちに「脈々と続く歴史が消えるのはもったいない」と思った。除染解体工事のため、住宅に眠る古文書が人知れず失われつつあることに危機感も募った。
 西村さんのルーツは山梨県境に近い、東京都の旧小河内村(現奥多摩町)。祖父はダム建設に伴い移転を強いられ、地区は水没した。「自分がダムを訪れてもシンパシーは感じない。同じことが、未来の福島の子どもたちにも起こる」。自分に重ね、そう考えた。
 浪江町で22年4月から年4回開催する調査報告会が今年2月下旬にあった。原発事故で一時全域に避難指示が出た浪江町は約8割が帰還困難区域のままだ。この日は年齢や性別もさまざまな、帰還者、避難者、移住者ら計40人が参加。江戸時代の大飢饉後の移民史について聞き入ったり、明治時代の町の絵図を見ながら、祖先から伝えられた話を教え合ったりした。
 西村さんと会を共催した権現堂出身の歌人三原由起子さん(45)は「異なる立場の人が事故にとらわれぬ形で地域の『らしさ』を見つめ直す場にもなっている」と話す。神奈川県から移住した会社員千頭数也さん(36)は「事故前の浪江に足を踏み入れたことはないが、昔の町並みが自然と頭に思い浮かぶ」と笑顔だった。
 町には23年、国が復興の目玉とする「福島国際研究教育機構」が開所し、今後も大規模開発が予定される。避難先の静岡県から訪れた塾講師堀川文夫さん(70)は「昔の浪江に戻してもらうのが本望。事故で失われたものを町民の記憶や文書として残すことも一つの復興だ」と語った。
 西村さんの現在の調査対象は江戸―大正時代が中心だ。「今生きている住民にとっての等身大の古里」を残すため、今後は昭和史や平成史にも力を入れる。「大字誌は、いわば心の接着剤。事故後に生じた住民間の分断を解きほぐす力もある」

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