掛川市茶振興計画見直し 業界全体で産地支援を【風紋】

 茶業界を取り巻く現状を有事と認識し、茶産地の生き残りを懸けた新たな指針とする-。掛川市は昨年度、市茶振興計画(2017~26年度)の中間見直しを実施した。「掛川茶未来創造プロジェクト」と名付けた計画を今月公表した。
 車を走らせればあちらこちらに茶畑が広がる市内。美しい緑の風景がこれからも当たり前にあると思っていたが、市が実施した生産者アンケート結果を見て驚いた。
 中間見直しのため、昨年9月に実施した調査は516経営体を対象に行った。回収率は74%。結果を見ると、経営主の平均年齢は64・4歳。後継者を問う設問に「後継者なし」と答えた割合は84%。
 現在の経営状況を5段階で調査すると①「良い・安定している」の回答は1%で、⑤「悪い・すぐにでも茶業をやめたい」の回答は26%だった。この結果にはお茶を愛飲する一人としてショックを受けた。確かに有事と言える状況と感じた。
 市がまとめた計画を見ると、現状を重く受け止め、冷静に分析し、危機を乗り越えようとする産地の決意がうかがえる。目指すのは10年後も掛川が世界に誇れるお茶のまちであること。経営茶園面積は現状の1114ヘクタールから5年後の目標を千ヘクタールに設定した。基盤整備などにより減少にブレーキをかける。茶産出額は現状の31億円から40億円を目指す。有機栽培茶や抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)製造の拡大、輸出の促進、ブランド力強化により生産者の経営を安定させる。
 持続可能な荒茶取引を促す「茶業版フェアトレード」といった大胆な構造改革に着手することも盛り込んだ。現在の荒茶の流通では、市場原理が働くことで取引価格が安定しないと指摘。生産者が不利にならないよう、生産者と茶商による計画生産により、適正価格で荒茶を販売できる仕組みの整備を目指すという。
 計画には「積極的にチャレンジする姿勢で、慣習や常識にとらわれない実行性のある取り組みが急務」と書かれている。長年続く制度や業界全体の意識を変えることは簡単ではない。未来志向の計画であるだけに、一部茶業者からは「現状を維持するだけでも精いっぱいなのに」との本音も。絵に描いた餅にならぬよう、茶商と生産者、行政が同じ方向を見て実行していく必要がある。
 

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞