戦争のこと、どう伝えていますか①【賛否万論】

 ロシアがウクライナに侵攻して以降、爆撃を受けた街並みや遺体の映像がインターネットなどで連日流れるようになりました。戦争の悲惨さを子どもたちに伝える機会ではありますが、あまりにも暴力的な映像からは子どもを遠ざけた方がいいという声が上がっています。もうすぐ日本は77回目の「原爆の日」と「終戦の日」を迎えます。語り部の高齢化や新型コロナウイルス禍で平和教育の機会が減る今、ウクライナやロシアのこと、戦争のことを、子どもたちにどう伝えていますか。(社会部・南部明宏、大須賀伸江)

静岡空襲の経験者が描いた絵を児童に見せる田中明充さん=6月中旬、静岡市葵区の竜南小
静岡空襲の経験者が描いた絵を児童に見せる田中明充さん=6月中旬、静岡市葵区の竜南小
県内作家の戦争をテーマにした絵本
県内作家の戦争をテーマにした絵本
ウクライナ・マリウポリで破壊されたアゾフスターリ製鉄所の関連施設の前に立つ親ロシア派の兵士=4月(ロイター=共同)
ウクライナ・マリウポリで破壊されたアゾフスターリ製鉄所の関連施設の前に立つ親ロシア派の兵士=4月(ロイター=共同)
静岡空襲の経験者が描いた絵を児童に見せる田中明充さん=6月中旬、静岡市葵区の竜南小
県内作家の戦争をテーマにした絵本
ウクライナ・マリウポリで破壊されたアゾフスターリ製鉄所の関連施設の前に立つ親ロシア派の兵士=4月(ロイター=共同)


惨劇映像 見せる?見せない?

 「これから焼死体の絵の映像が出てきます」。静岡市立竜南小で行われた6年生の平和教育で「静岡平和資料館をつくる会」の田中明充さん(78)は、子どもたちが突然の生々しい映像に驚かないよう気を配った。
 1945年6月の静岡空襲の説明中、スクリーンに映し出されたのは戦争経験者が残した体験画だった。猛火に巻かれる人々や防空壕[ごう]の中に並んだ遺体、防火水槽の中で両手を天に突き上げたまま黒焦げになった人…。「死者2000人」「10万発の焼夷[しょうい]弾」などと熱心にメモを取っていた児童らは息をのんで見入った。
 同会はこうした貴重な体験画を約125点所蔵している。田中さんは平和教育の講師を務める時「子どもたちに、どの絵を紹介しようか」と毎回頭を悩ませるという。精緻なタッチの絵ほど惨劇をありありと伝えるが、低学年対象の授業では事前打ち合わせの段階で「子どもがおびえてしまう」と教員から難色を示されることがある。

 

恐怖与える可能性

 ウクライナの様子が交流サイト(SNS)を通してリアルタイムで伝えられ、爆撃に逃げ惑う人々や、息絶えた兵士、市民をとらえた映像が子どもの目にもふいに飛び込んでくるようになった。安倍晋三元首相の銃撃事件では、生々しい映像がテレビでも繰り返された。残虐な映像は「うちのママが死んでしまうかも」「自分の家が壊されてしまうかも」などと、子どもに過度な恐怖を与えてしまう可能性があるという。
 世界中の子どもの支援活動を行う国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」は、子どもと戦争について話す時のポイントを解説。状況を詳しく説明し過ぎないよう注意を促し「大人が解決するべき問題。あなたは今まで通りでいい」などと安心感を与えるような言葉がけが大切としている。日本トラウマティック・ストレス学会は惨事報道を繰り返し見ないようにしたり、親が視聴時間を制御したりするよう呼び掛ける。

 

「リアル伝えたい」

 平和教育に取り組む人たちはどう考えるか。読み聞かせボランティアなどを行う島田市の四ツ谷恵さんは小学生には衝撃的な画像などを使わないようにしているが、「映像や写真よりも、現実はもっと悲惨な状況だっただろう。命の大切さを感じてもらうためにもリアルなものを伝えたいという思いはある」とジレンマを明かす。
 県公認心理師協会の中垣真通・災害支援領域委員長は「判断力が育ってきている12~13歳になれば自分でバランスを取りながら画像と向き合うことができるようになるが、心の傷を持っていて影響を受けやすい子も少なからずいる」とし、「平和教育の趣旨から画像を一切見せないということが難しいならば、子どもの気分が悪くなった時にはすぐにフォローする態勢を整えて実施してもらえたら」と話す。

 

遺族会など関係団体 語り継ぐ方法模索

 戦争を体験した世代が減少する中、関係団体は子どもたちに記憶を語り継いでいこうと知恵を絞っている。
 浜松市遺族会は昨年3月、浜松大空襲を知る人たちの証言を収録した小学生向けDVDを制作した。授業で使うことを想定し、衝撃的な映像を避けつつ20分の映像にまとめた。
 ことし6月には浜松市内の企業と開発を進めていた「AI(人工知能)語り部」をお披露目した。空襲体験者の話を事前収録してモニターに質問を投げ掛けると、体験者が実際に答えているような映像が流れるシステムだ。大石功会長(77)は「今の平和は大きな犠牲の上にあることを忘れてほしくない」と、思いをつなぐ方法を模索する。
 県原水爆被害者の会もメンバーの高齢化に危機感を募らせ、それぞれの記憶をDVDに収める活動を続ける。県疾病対策課によると、本県在住の被爆者健康手帳の保持者は3月末時点で404人、平均年齢は83.6歳。メンバーの豊嶋恒之さん(82)=静岡市清水区=は「高齢化で『体が動かず、語り部を務めたくてもできない』という人は多い。活動は年々難しくなっている」と話す。

 

戦争の怖さより平和の尊さを 絵本作家たちの思い

 戦争をテーマにした作品を手がけた絵本作家らに、平和教育のあり方について聞いた。
 下田市の鈴木まもるさん(69)は5月、「戦争をやめた人たち 1914年のクリスマス休戦」(あすなろ書房)を発刊した。第1次世界大戦中のクリスマスイブ、交戦していたイギリス兵とドイツ兵が「きよしこの夜」の歌をきっかけに戦場で心を通わせた実話を基にした。
 鈴木さんは「悲惨さを伝えることは大切だが『戦争はいけない』と繰り返しても、子どもの心にスッと入っていかないのでは」とし「戦争の中にも夢や希望を感じられる本を描きたかった」と話す。
 2015年出版の「せんそうしない」(講談社)は詩人谷川俊太郎さんの文に、三島市の江頭路子さんが絵をつけた。江頭さんは「残酷な悲しい絵を描くよりも、『ケンカはいけない』と正義を主張するよりも、子どもの笑顔と日常を描く方が『平和ははかないもの』と感じられると思った」と振り返る。
 静岡市葵区の自宅で家庭文庫を開く児童文学作家草谷桂子さんは「戦争に関する絵本はたくさんあるが、園児や小学校低学年ぐらいまでは戦争の怖さよりも平和の尊さを伝えたい。まずは『生きてるってすてきだな』という揺るぎない土台をつくってから」とアドバイスする。

 

ご意見 お寄せください

 

 学校や家庭で、ロシアによるウクライナ侵攻や過去の戦争のことを子どもにどう伝えていますか。どんなことを意識していますか。参考となる事例や考えを聞かせてください。お住まいの市町名、氏名(ペンネーム可)、年齢(年代)、連絡先を明記し、〒422―8670(住所不要)静岡新聞社編集局「賛否万論」係<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>にお送りください(最大400字程度)。紙幅の都合上、編集させてもらう場合があります。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞