時論(8月13日)戦争画 多角的な分析を

 手元に戦時中発刊された大判の図録が4冊ある。「大東亜戦争 陸軍作戦記録画」「海軍美術」「大東亜戦争 海軍美術」「聖戦美術」。いずれも軍部の主導で画家が従軍するなどして描いた、いわゆる「戦争画」が集められている。一連の絵画は戦意高揚などが目的で、当時、全国で巡回展が開かれ多くの人が足を運んだ。
 今夏、親族の一人が「実家で見つけた」と知らせてくれた。保存状態は良く、色鮮やかで生々しさも感じる。戦闘の様子のほか、慰問袋を作るなど「銃後」も描かれる。作者には藤田嗣治や小磯良平など画壇の巨匠も名を連ねる。
 戦争画は戦後、画家の戦争責任が問われる中で長年、美術界でタブー視されてきた。中心的存在だった藤田は“戦犯”と批判され、再び渡仏し二度と故国の地を踏むことはなかった。
 戦時中、多くの画家が「彩管報国[さいかんほうこく]」(絵筆で国に報いる)の名の下、戦争画に手を染めた。積極的な戦争協力、「新しい題材」という純粋な芸術面での追究など、動機はさまざまだろう。
 だが、図録を見た時、強引に心をつかまれるような感覚があった。事実に縛られない表現も可能な絵画の世界で画家が技を駆使した時、作者の思いとは関係なく、見る者の心に深く突き刺さるのが戦争画の怖さかもしれない。
 戦後、戦争画の主要作品153点は連合国軍総司令部(GHQ)が接収、米国に移送された後、1970年に「無期限貸与」の形で日本に返還された。現在は東京国立近代美術館に保管され、数点ずつを常設展示している。可能なものは、デジタル画像をネット上で公開している。プロパガンダか芸術か、善か悪かという二元論に埋没させず、多角的な分析をさらに進めたい。

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