袋井町西国民学校 暗闇からの生還 「痛い」「助けて」泣き叫ぶ児童【語り継ぐ 東南海地震③】

1944年の東南海地震で川岸に生じた地割れ=袋井市の原野谷川(関七郎さん提供)
1944年の東南海地震で川岸に生じた地割れ=袋井市の原野谷川(関七郎さん提供)
筒井昭さん
筒井昭さん
梶本はま子さん
梶本はま子さん
藤原町子さん
藤原町子さん
1944年の東南海地震で川岸に生じた地割れ=袋井市の原野谷川(関七郎さん提供)
筒井昭さん
梶本はま子さん
藤原町子さん

 ■暗闇の中で合唱 居場所知らせる 元スズキ副社長 筒井昭さん
 1944年の東南海地震で児童20人が犠牲になった袋井町西国民学校(現・袋井市立袋井西小)の当時の在校生有志は毎年、発生日の12月7日に袋井西小で体験講話を行っている。語り部の一人で、木造平屋建て校舎の瓦屋根の下敷きになった筒井昭さん(85)=浜松市中区=に、暗闇の中から救出され生還した体験を聞いた。
 筒井さんは崩落した瓦屋根の部材が左足にのし掛かって身動きが取れなかったが、駆け付けた住民に救出され、けがも1週間で完治した。その後マラソンランナーとして注目され、中央大在学中の1957年に関東インカレ優勝。卒業後はスズキで副社長や陸上部総監督などを歴任した。
 地震当時は2年生の級長だった筒井さん。授業中、教室が激しく揺れて土壁がパラパラとはがれ、「ここにいては危ない」と感じた。教員は「外に出ちゃいかん」と教室の出口に立ちはだかったが、すり抜けて逃げた。
 だが廊下を移動中、ドーンという強烈な震動で屋根が崩落。視界が真っ暗に。あおむけの体勢で左足が梁[はり]などに挟まれた。
 「痛いよ、助けてー」「お母さん、お父さーん」と泣き叫ぶ声。阿鼻叫喚[あびきょうかん]の状況だった。一方、遠くで救助に取り組む気配も感じた。「ここだよ筒井だよー」と叫び、他の児童も声を張り上げたが気付いてもらえない。「みんなで歌を歌って居場所を知らせよう」。周囲に呼び掛け合唱した。「何の歌かは覚えてないが、お互いを元気づけようと必死だった」と語る。
 30分か1時間ほど経過したころ、瓦が除去され光が差し込んだ。駆け付けた住民がのこぎりで屋根の部材を切断し、筒井さんは救助された。だが同級の2年生は10人が命を失った。「地震の際、児童にどう対処させるか。判断が難しいだけに、学校はさまざまな状況を想定して訓練してほしい」と呼び掛ける。

 ■「屋根から飛び降りた」「校舎つぶれる光景 目撃」 藤原町子さん 梶本はま子さん姉妹
 東南海地震の発生当時、建築基準法や耐震基準はなく、建物の耐震性は低かった。袋井町西国民学校では木造平屋建て校舎2棟が全壊した一方、同2階建て校舎は一部損壊したものの倒れなかった。
 6年生女子組だった藤原町子さん(90)=浜松市浜北区=は、2階建て校舎2階で授業中だった。教室が揺れ始めると土壁がはがれ始めた。教師は「窓際で伏せろ」と指示し、児童は揺れが収まるまで耐えた。「2階からは他の校舎がつぶれているのが見えたと思う」と藤原さんは語る。
 階段も損壊していたため教師は児童に2階の窓から渡り廊下の屋根に下り、さらに2・5メートルほど下の地面に飛び降りるよう指示した。「先生は2階建て校舎も危ないと思ったのでは」と藤原さん。児童1人が足を骨折し、1人が頭を打って額から出血したという。
 3年生だった妹の梶本はま子さん(86)=袋井市=は平屋建て校舎にいた。教師は「地震だ、外に出ろ」と指示。はだしで飛び出して数分後、校舎がつぶれる光景を見た。梶本さんは「爆風みたいにものすごく粉じんや砂煙が舞い上がった」と思い返す。あまりの出来事に教師は「空襲かもしれん、伏せろ」と呼び掛けたという。梶本さんは泣き続け、藤原さんが迎えに来て一緒に帰宅した。梶本さんは「あの時の恐怖が身に染みつき、今も地震があるとすぐ外に出てしまう」と話す。

 <メモ>1944年東南海地震 12月7日午後1時36分ごろ、紀伊半島東部の熊野灘を震源とし、マグニチュード(M)7.9の規模で発生。県内では袋井市、磐田市など中東遠地域の一部が現在の基準で震度7相当の揺れに見舞われ、軟弱地盤の地域などで住宅約1万6000戸が全半壊し、295人が死亡した。

 東南海地震の体験、証言募集 静岡新聞社は1944年の東南海地震を体験した方の証言を募集しています。中東遠地域以外でも、被害が大きかった静岡市清水区の住宅倒壊や、浜松市での軍需工場被災、下田市での津波浸水などを体験した方は、ぜひ証言をお寄せください。取材をお願いする場合もあります。被災地の写真のご提供も受け付けます。
 お住まいの市町名、氏名またはペンネーム、年齢、連絡先を明記し、〒422-8670(住所不要) 静岡新聞社編集局「語り継ぐ東南海地震」係<ファクス054(284)9348>、<Eメール shakaibu@shizuokaonline.com>にお送りください。

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