どうする?離婚後の子育て③ 関係者インタビュー【賛否万論】
夫婦が離婚した後、どちらか一方が子どもの親権者となる単独親権制度をこのまま維持するか、それとも離婚後も父母双方が親権を持つ共同親権を導入すべきか。全国の読者からさまざまな意見が寄せられています。9月16日付の関係者インタビュー1回目は、共同親権の導入推進派で「静岡親子の会」の代表を務める大森貴弘常葉大准教授の話を掲載しました。今回のインタビュー2回目は、静岡市のひとり親支援団体「シングルペアレント101」の代表で、共同親権導入に反対する田中志保さんの話です。
共同を強制する仕組み 本当に必要か 共同親権の導入反対派/シングルペアレント101 田中志保代表
共同親権について議論が進められています。
法制審議会の議論は重大な局面を迎えています。本来なら8月末の会合で「単独親権の維持」と、「共同親権の導入」を両論併記した中間試案が示され、パブリックコメント(意見公募)が始まる見通しでしたが、自民党法務部会の反発を受け、試案の決定は先送りになりました。同部会の作業チームは6月、法相に「共同親権を導入すべきだ」という踏み込んだ提言を提出した経緯もあり、ひとり親の支援者サイドとしては大きな危機感を抱きながら、議論の行方を注視しています。今こそ、現場の声をきちんと届けねばなりません。
共同親権について、支援対象者からはどのような声が寄せられていますか。
元夫との対立関係を経験したシングルマザーが特に不安を抱えています。「適用されるのか知りたい」と自分たちの事例を照会するケースや、「子どもは意見表明できるのか」「別居親が子に会いたい気持ちは分かるが、子がまた苦しい思いに引き戻されないか心配だ」と、子どもを気遣う声、「妻に対するドメスティックバイオレンス(DV)による離婚の場合、共同親権制度の適用範囲に制限は設けられないのか」といった質問が多いです。
■親権は「子のため」
DVについては、全国組織「シングルマザーサポート団体全国協議会」の調査を通じても訴えてきました。
調査には2500人が協力し、県内のひとり親100人も含まれます。結果、9割が婚姻中に「DVを受けた経験がある」と回答しました。回答者が感じる「DV」は明らかに法に触れる身体への危害だけでなく、経済的、精神的なものも含みます。厳しい束縛を受けたり、夫に「お伺い」を立てないと行動できない心の支配を離婚理由とする方々が一定数存在する、ということです。その方たちは、子を連れて家を出るという緊急避難をし、離婚を経て不安を抱えながらも平穏な暮らしをしています。共同親権が実現したら「連携」の名の下に、再び上下関係に引き戻されるのかとおびえています。法的に離別しても、関係性はずっと崩せないですから。
具体的に、どのような状況を懸念しますか。
親権は、進学先や医療行為などを決める重要事項決定権を含みます。海外の共同親権制の採用国で、子に新型コロナウイルスのワクチン接種をさせるかをめぐり両親が合意できず裁判所に判断を求めた事例があり、国内でも導入したら同様の事態が想定されます。高校受験など時限がある場合で両親の意見が割れたらどうすべきか、勉強時間を削って子どもが裁判所に意思表明に行くのかなども現時点では分かりません。私は進路はそもそも子の考えが尊重されるべきだと考えます。親権は「子の利益のために行使する」と定義され、共同親権により「親のための権利」とならないよう気をつけねばなりません。
また面会についても支援制度が充実しているとは言えない中で頻度を高めるなら、休日の子の行動に制限が生じることも懸念されます。うまく運用されるとは考えられず、子が望んだ場合に調整してくれるような支援機関が必要です。
■養育費確保が重大事項
日本は支援が整っていないのでしょうか。
採用国に比べると明らかに劣っています。面会交流の支援事業は県内でも自治体によってありますが、数回無料で、すぐに満了になってしまいます。また別居親に拒否され、利用を合意できない、という声も聞きます。面会をしても「離婚前に長く過ごした長子と次子とで扱いが違う」とか、「父親が知らない女性を連れてきた」といった子が困惑した事例を聞きます。親として子にどう接することが適切か、啓発は途上にあると感じます。また、子が病気で会えない時にも怒られたり「養育費を止める」と言われたりすることもあります。別居親すべてがそういう方ではないことは理解していますが、共同親権が全ての親に波及する可能性がある以上、実現には慎重にならざるを得ません。
ひとり親からすると、養育費の確保こそ重大事項。たたき台でも触れられてはいますが、養育費支払いの強制力を高めることはほとんど議論されていないといっても過言ではありません。
海外では共同親権が主流、と言われます。
共同親権を採用している国でも、対立関係がある場合は単独親権にするとか、支援機関が充実しているなど、国によって事情が異なりますから、安易に比較してほしくありません。米国やオーストラリアでは、近年別居親が面会時に子を殺害する事件が相次ぎ、交流よりも子の安全を優先する傾向が高まっています。日本でも2017年に面会交流に絡む殺人事件が2件あり、そして今、共同親権に向けた議論が行われています。また国内では過去に、共同親権に近い状況として、監護権と親権を分けて離婚後の夫婦に付与し、実質的な共同養育を試みた事例がありましたが、うまくいかなかった点も、識者に指摘されています。
協議離婚などで対立が大きくなく、その後も連携して実質的に共同養育している両親はいます。この現状で、共同で物事を決めるよう強制する仕組みは、本当に必要でしょうか。(聞き手=社会部・大須賀伸江)
たなか・しほ 静岡県内のひとり親調査を契機に2014年、シングルペアレント101を設立。当事者支援のほか、ひとり親の課題を社会に可視化する活動などを続け、国への政策提言も行う。日本福祉大を今春卒業した。48歳。
次週の賛否万論は同じテーマでしずしんニュースキュレーターの意見と読者投稿を紹介します。
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