時論(10月16日)豪雨被害、川自体にも目を

 泥水といっていい濁流、根をむき出しにして倒れている多くの大木、上流部から転がってきたとみられる巨岩…。川のあまりの変わりように言葉を失った。生命感がない、痛々しい姿に胸をかきむしられるようだった。
 台風15号に伴う豪雨から半月ほどたった今月上旬、静岡市内を流れる安倍、藁科、興津の3河川の状況を下流から上流部まで、車で移動しながら1日かけて見て回った。被害は想像以上だった。水量は平時に戻りつつあったが、清流の面影はない。特に、興津川と藁科川の状況が深刻だと感じた。
 アユ釣りの名川として知られる興津川。漁協は今後の産卵期に影響が出るのは確実で、親アユを放流しても効果があるかは未知数とみる。餌となるコケについては「増水で流されたか、泥に埋まっているか」と指摘した。アユのおとり店からは「3~5年は影響が続くのでは」との声も聞かれる。
 川に回復力があるとはいえ、影響が長期化するのは間違いないだろう。今は、被災家屋の修理や道路の復旧、災害ごみの処分など、市民生活の再建が最優先だ。同時に、川自体への影響にも目を向けてほしい。しかるべきタイミングで魚や水生昆虫、植物など生態系を含む現場の実態を、産官学が一体になって調査するべきだ。
 「清流は万人の宝」という看板が川沿いに立っていた。何も釣りに限ったことではない。川はまさに万人にとっての癒やしの場であり、学びの場であり、地域のシンボルでもある。生活に密着し、多面的な役割を担っている。
 今回、豪雨被害が拡大した要因として、森林荒廃による保水力の低下を指摘する声がある。川がこれほどまでに傷んだ背景を考えることも大切だ。

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