「布川事件」描いた映画 静岡で上映 再審無罪の桜井さん「人生前向きに」

 茨城県で1967年に起きた「布川事件」で29年間身柄拘束され、やり直しの裁判(再審)で無罪となった桜井昌司さん(75)のドキュメンタリー映画「オレの記念日」が28日から、静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリーで上映される。「失ったものを求めてもしょうがない。得たものを喜んで生きてきた」―。そんな桜井さんの生きざまを描いた金聖雄監督(59)は「皆がしんどさを抱えている今の時代に生き方のヒントになるのでは」と話している。

袴田巌さん(左)と将棋を指す桜井昌司さん。桜井さんはたびたび浜松市内の袴田さん宅を訪ねている(Kimoon Film提供)
袴田巌さん(左)と将棋を指す桜井昌司さん。桜井さんはたびたび浜松市内の袴田さん宅を訪ねている(Kimoon Film提供)
桜井昌司さん(左)と金聖雄監督(Kimoon Film提供)
桜井昌司さん(左)と金聖雄監督(Kimoon Film提供)
袴田巌さん(左)と将棋を指す桜井昌司さん。桜井さんはたびたび浜松市内の袴田さん宅を訪ねている(Kimoon Film提供)
桜井昌司さん(左)と金聖雄監督(Kimoon Film提供)

 「記念日」は桜井さんの獄中詩だ。二十歳の秋に逮捕された日、うその自白をした日、強盗殺人の罪で無期懲役刑が言い渡され「人殺しの犯人だと裁判官が言った日」、両親が亡くなった日…。金さんは「逆説的な意味で記念日と言っている。よくよく考えると絶望的な詩」だと痛感する。仮釈放後の結婚、2011年の再審無罪、21年の国家賠償請求訴訟での勝訴確定など、その後の「記念日」をたどって物語を編んだ。
 桜井さんは刑務所での生活に際して「泣いたって出られない。だったら、とにかく明るく楽しく生きてやろう」とあえて誓った。そこは修行の道場であり「自分自身を自分自身にした場所だった」と振り返る。一方、結婚後間もなく窓から飛び出そうとしたことがあったという。妻恵子さんは「冤罪(えんざい)って、ややもすると人格が破壊されてしまう」と知った。
 19年にはステージ4のがんが発覚。余命1年と宣告されたが、桜井さんは「人生良いことばっかじゃ、つまらないじゃないですか」と笑い飛ばす。食事療法などを続けながら、袴田巌さん(86)らの再審を求める活動や再審法(刑事訴訟法の再審規定)の改正実現への情熱を絶やさない。金さんは「桜井さんは生きること全てに前向き。映画を見て『もう少し頑張ってみよう』と思ってもらえればうれしい」と期待を込める。
 104分。12月9日から浜松市中区のシネマイーラでの上映も決まっている。
 (社会部・佐藤章弘)

 布川事件 1967年8月、茨城県利根町布川の男性=当時(62)=が自宅で殺害されているのが見つかった。県警は同10月に別の窃盗容疑などで逮捕した桜井昌司さんと杉山卓男さんを強盗殺人容疑で再逮捕。2人は公判で無罪を訴えたが、78年に最高裁で無期懲役が確定した。2人は再審請求し、水戸地裁土浦支部は2011年、2人の犯行とする客観的証拠はないとして再審無罪判決を言い渡した。杉山さんは15年に死去した。

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