記者コラム「清流」 二俣事件の記憶

 1950年1月に一家4人が殺害された二俣事件で、その人が遺族の一人だと知ったのは、恥ずかしながら天竜支局から異動した後だった。
 大橋武司さん(83)。旧天竜市の元教育長であり、本田宗一郎ものづくり伝承館を運営するNPO法人の理事長を務めていた。二俣事件の当事者とは想像もしなかった。
 「創作」としながら事件で生き残ったことを大橋さんがつづった郷土文芸誌を読み、ようやく把握した。おそるおそる取材を願い出たのは2015年8月。当時のメモには「もうタブーはない」「事実は話すよ」と書いてあった。
 あれから7年余り。穏やかな晩年にさざ波を立てないか心配だったが、連載した。朝早く、大橋さんが感想を伝えてくれた。取材に応じてくれたことを改めて感謝したい。

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