他法令代用の静岡県主張否定、下流被害の責任問えず 熱海土石流・砂防法規制放置問題/北村喜宣上智大教授(行政法学)
熱海市の逢初(あいぞめ)川で2021年7月に起きた土石流の砂防法規制放置問題を巡り、不法盛り土対策の国土交通省作業部会委員を務める北村喜宣上智大教授(行政法学)が15日までにインタビューに応じた。下流域への土石流を防ぐ砂防法の代わりに県土採取等規制条例(手続きの権限は市)や森林法で上流域の開発に対応できたとする県の主張を否定し「法令ごとに目的は異なる。(県条例や森林法は)制度上、下流域の土石流防止まで具体的に想定していない」とする見解を示した。
土石流は最上流部の盛り土崩落が原因とされるが、大量の土砂は急勾配の逢初川を約2キロ流れ下り、途中の砂防ダムで止まらずに下流域の集落を襲った。
北村氏は「明治時代に制定された砂防法には目的規定がないが、法律全体の趣旨として、適切な砂防工事によって下流域の住民の生命、財産を保護する目的は明白」と解説。県条例や森林法の法令違反で下流域の土石流被害の責任を問えるのかという質問に「崩落箇所で盛り土を止めるという意味はあるが、それは『点』の話であり、下流域の被害の責任を問うのは無理」と答えた。
砂防法の規制の必要性を考える上では、県が砂防指定地の指定を国に申請した1998年に土地所有者から上流全体を指定する同意を取ろうとした事実に着目。当初から上流全体の規制の必要性を県は認識していたはずという見方を示した。
土地所有者の同意を得られず指定を見送った県の対応に関しては「同意が得られないなら規制ができないというのでは、保安という重大な目的を持つ砂防法の意味がなくなる。県は同意取得を諦めて必要な範囲の指定を申請すべきだった」と指摘。今回のケースは盛り土造成後でも、本来指定されるべき指定地の範囲を指定して既存の盛り土に規制を適用できるとした。
熱海土石流 砂防指定必要「県認識あったはず」
熱海市で2021年7月に起きた大規模土石流を巡り、15日までにインタビューに応じた不法盛り土対策の国土交通省作業部会委員、北村喜宣上智大教授(行政法学)の主な一問一答は次の通り。
―静岡県は逢初(あいぞめ)川の砂防ダムを設置する際、上流全体の砂防指定の同意を得ようと土地所有者と複数回協議している。
「県が上流全体を砂防指定地に含めるべきと考えたからこそ、同意取得を試みたはず。指定の必要性は認識されている。指定の不要な場所まで『念のため』に指定申請しようとするはずがない。土石流の後、県庁内の調整で、砂防法は関係ないことにしようと決まったのではないか」
―砂防指定しなかった上流域に、砂防ダム容量の9倍の土砂を搬入する計画が出てきたが、県は砂防法の代わりに県土採取等規制条例や森林法で対応できたと言っている。
「砂防ダムを機能させるために他の法令を使うというロジック(論法)は普通はない。県条例は急傾斜地を想定しているわけではなく、森林法も防災機能をうたうが抽象度が高い。これに対して、砂防法は具体的に下流域を守ろうとしている。どちらが効果的かは明白だ」
―県は、開発行為は砂防法の規制の対象外だと誤解していた。
「開発行為があろうとなかろうと、砂防ダムの容量で対応できる十分な範囲を砂防指定地にすべきだ。放置すると崩落しやすい上流域の面を下流部でカバーするのが砂防ダムのシステム。ダム上流の後背地で自然発生する土砂に対応するのに十分な容量を計算してダムを造る。設置したダムの容量は増やせないのでダム後背地を砂防指定地にして開発を規制することで、プラスアルファの人為起源の土砂が下流に流出しないようにしている。指定地内ではダムの維持管理に支障がない開発行為だけを認め、厳格にコントロールする」
―逢初川上流域の盛り土は造成後に砂防指定地を拡大して規制できるのか。
「そもそも、砂防指定地が砂防ダム付近に限定され、過小に指定されていた。砂防法の目的にある住民の生命や財産を守るには、本来指定すべき上流全体を指定する必要があった。指定し足りないのだから、法解釈としては盛り土造成後の追加的指定も違法ではない」
(聞き手=社会部・大橋弘典)