静岡・杉尾の盛り土 土石流発生の目安超す勾配 地盤23度、静岡県「安全と言えず」

 藁科川上流の静岡市葵区杉尾地区にある土石流危険渓流に無許可で盛り土が造成されている問題で、盛り土の地盤の勾配が、国が土石流発生の目安としている「15度以上」の23度であることが1日までの県への取材で分かった。28人が死亡・行方不明になった一昨年の熱海土石流の崩落盛り土と同じ水準の傾斜角。県は「安全とは言えない」(砂防課)とし、土砂の全量撤去を基本に対策を検討している。

土石流危険渓流に造成された静岡市葵区杉尾地区の盛り土=1月中旬、同区(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
土石流危険渓流に造成された静岡市葵区杉尾地区の盛り土=1月中旬、同区(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
国が示している「土砂が移動する勾配の目安」
国が示している「土砂が移動する勾配の目安」
土石流危険渓流に造成された静岡市葵区杉尾地区の盛り土=1月中旬、同区(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
国が示している「土砂が移動する勾配の目安」

 県によると、杉尾の盛り土は最上部と最下部を結んだ線で勾配を計算すると23度で、盛り土から約700メートル下流にある人家までは14度。盛り土の下流側1・5キロの地点で2度まで緩くなる。砂防課はこうした勾配を考慮すると途中の人家が危険だとみていて、「危険性の除去を考えて対応したい。全ての土砂の撤去が原則になる」としている。
 国は1999年、土石流危険渓流の調査資料として、沢に堆積した土砂がどのように移動するのか、勾配ごとの目安を示している。土石流に詳しい土屋智静岡大名誉教授(砂防学)はこの調査資料を踏まえて「土石流は経験的に勾配が15度以上で発生する」と指摘。10~20度は「止まらない」、2~15度は「堆積し始める」、2度未満は「ほとんど流れなくなる」と解説する。
 熱海市伊豆山の土石流の起点で崩落した盛り土も大半は逢初(あいぞめ)川上流域の20~30度の急な傾斜地に造成されていた。盛り土から約2キロ先の河口まで約10度の急な下り坂が続いていて、土石流が途中で止まらず下流の集落を襲って大きな被害を出した要因の一つとされている。

 沢に造成 行政へ再三通報も動き鈍く 下流の住民憤り
 静岡市葵区杉尾地区の無許可盛り土の下流約700メートルに住む農林業の男性(61)が1日までに取材に応じ、盛り土の造成地に関し「(造成業者が)元々、沢があった所を埋めてしまった」と危険性を指摘し、土石流防止対策として「(盛り土と自宅の間に)大きな砂防ダムを造ってもらうしかないのでは」と困惑した表情を浮かべた。
 男性によると、盛り土は6、7年前に造成が始まり、以降は大雨のたびに自宅前の沢に泥水が流れるようになった。谷が埋まる様子も確認していて「沢はくぼんでいるから土砂が多く入って効率が良いが、渓流は盛り土を造らせないようにしないと」と強調する。
 行政には何度も通報していたが、動きは鈍く、市の担当者から「何かあったら逃げてください」と言われたこともあったという。「こちらは60年以上、この場所に住んでいる。(行政は)業者を規制するのが先だろう」と業者に甘い行政の対応に憤りを隠さない。

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