不適切盛り土196カ所 静岡県、場所黒塗り非公表 所有者特定、訴訟懸念を理由に
熱海土石流後の盛り土総点検で判明した静岡県内の不適切な盛り土196カ所に関し、静岡新聞社が具体的な場所の情報を開示するよう県に求めたところ、県は16日までに、「土地所有者が特定される」ことを理由に非公表とした。所有者や開発業者から訴訟を起こされる恐れもあるとするが、熱海土石流では盛り土の存在が下流域の住民に事前に知らされず、逃げ遅れた27人と関連死1人の犠牲につながった。国土交通省は「自治体には公表をお願いしている」としている。
盛り土総点検は一昨年の土石流後に全国で実施。本県は排水施設の不備や届け出と異なる造成などの盛り土が196カ所あるとし、関係法令別と地域別(東中西部と伊豆)の箇所数を発表したが、個別の場所や危険度の評価、是正状況などを公表していない。
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本紙の請求に対し、県は不適切盛り土の一覧表を開示したものの、盛り土の所在地を市町名までしか示さず、字名や地番を黒塗りにして伏せた。県盛土対策課の担当者は「公表基準を現時点で整備していない。今後、検討したい」と説明している。
県によると、緊急性のある盛り土の場所は市町が地元自治会などに周知したという。ただ、徹底されているかは不明で、どのように緊急性を判断したのかも示していない。
国交省の吉田信博参事官(宅地・盛土防災担当)は取材に「公表しても法的に問題はない。住民避難に役立つなど、個人情報を出すだけの公益性があると自治体が判断するかどうかだ」と述べた。
同じ盛り土でも、一定規模以上など国の要件に当てはまる「大規模盛土造成地」は地震対策として全国的に公表済みだ。造成地のある県内の市町は具体的な場所を地図上に掲載して各市町のホームページで明らかにしている。業者などから訴訟を起こされた事例は確認されていない。
法令に抵触する可能性がある「不適切な盛り土」に関しては、県が訴訟リスクを理由に非公表としたが、対応の矛盾が浮き彫りになっている。
大規模盛土造成地を公表する静岡市の担当者は取材に「違法性はなく、危険であることを示しているのではない」と断った上で「今のところ公表の弊害はない。今後、経年劣化の状況や耐震性などを調査して結果を発信したい」と答えた。