再審法改正に向け奔走 判断しやすい環境追求【最後の砦 刑事司法と再審⑨/第2章 語り始めた元裁判長㊦】

 一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田巌さん(86)の再審開始決定を静岡地裁の裁判長時代に手がけた村山浩昭さん(66)は、その当時から「裁判員の方には気付かされることが多い」と口にしていた。

大崎事件の再審請求が棄却されたことを受け、他の裁判官OBと声明文を発表した村山浩昭さん(左端)。「旧証拠との総合評価を全くしていない」と批判した=2022年6月22日、東京都内
大崎事件の再審請求が棄却されたことを受け、他の裁判官OBと声明文を発表した村山浩昭さん(左端)。「旧証拠との総合評価を全くしていない」と批判した=2022年6月22日、東京都内

 「人の一生を左右するような事件についてチームを組み、真剣に議論する。互いに歩んできた人生が違うから、いろいろな経験則が提出される。量刑にもその価値観が結構反映される。非常に新鮮な経験だった」
 一般の市民が刑事司法に関わる意義はどこにあるのか。村山さんは「大上段に言うと、司法は国家権力を行使する一つの場。以前は市民の手が届きにくかったと思う」と説明。その上で「市民の方と法曹三者が一緒に裁判することで、法律の枠組みを守りながら、社会の考え方や情勢の変化などをある程度フレキシブルに反映できる」と捉える。
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 裁判官として「予断を抱かず虚心坦懐(たんかい)に証拠を見る。証拠から推論するとき、さまざまな可能性を排除しないこと」を心がけてきた。それでも、裁判員と議論すると「こうだろうと思っていたことが必ずしもそうじゃない、とふと気付くことがある」。
 同時に「裁判員の皆さんも、裁判員裁判に関わることで日本の刑事司法システムを理解していただける」と受け止める。「何人もの方から『裁判を経ないと有罪にはならないのだとよく分かった』と言われた。それだけでも有意義だし、価値がある」と思っている。
 裁判員裁判の導入で、通常審では証拠開示の幅が広がるなど制度が整えられてきた。一方、長年不備が指摘される再審法(刑事訴訟法第4編再審)の改正が一度も実現せず、忘れられた存在にされているのはなぜか。「やっぱり、再審は極めて例外的な現象だと思われている。一般社会だけでなく法曹界でもそう。(請求審を)経験した裁判官は改正の必要性を実感していると思うが、経験した人の数自体が多くない」。法教育も十分とは言えず、諸外国に比べると「刑事事件を見る目がまだまだ成熟していない」とも感じている。
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 2021年の師走に定年退官すると、翌22年に弁護士登録した。
 同年6月、村山さんは他の裁判官OBと東京都内で記者会見に臨んだ。鹿児島県大崎町で男性の遺体が見つかった「大崎事件」で、無実を訴えながら服役した原口アヤ子さん(95)の再審請求を鹿児島地裁が棄却したことを批判。過去に3度再審開始が認められながら、検察官の不服申し立てで取り消された経緯を念頭に「救済されるべき人が、(審理の)引き延ばしで命が尽きてしまうことになれば問題」と懸念を示した。
 現在は、日本弁護士連合会の再審法改正実現本部委員として改正実現のために努力しているという。精力的に活動する理由とは―。
 「再審を闘っている人や弁護士のためだが、実は裁判官のためでもあると思って取り組んでいる。裁判官が、再審の理念に基づき、きちんと再審事件に取り組み、判断しやすい環境をつくりたい」

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