袴田さん再審可否 13日決定 高裁差し戻し審

 現在の静岡市清水区で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして死刑判決が確定し、裁判のやり直し(再審)を求めている元プロボクサー袴田巌さん(87)の差し戻し後の即時抗告審で、東京高裁は13日、再審開始の可否を決定する。検察側の即時抗告を棄却して再審開始を認めるのか、再審請求を棄却するのか。高裁の判断が注目される。

袴田巌さん
袴田巌さん

 事件発生から1年2カ月後に現場近くのみそタンクで「5点の衣類」が見つかり、袴田さんの犯行着衣とされた。しかし、付着した血痕には赤みが残り、弁護団は「不自然」として捏造(ねつぞう)された証拠だと指摘してきた。静岡地裁は2014年、DNA型鑑定結果を最大の根拠に袴田さんの再審開始を認め、死刑と拘置の執行停止も決めて釈放した。東京高裁は18年、鑑定結果の信用性を否定して請求を棄却したが、釈放状態は継続させた。最高裁は20年、みそ漬け血痕の変色を巡って審理不尽の違法があるとして高裁決定を取り消し、差し戻した。
 差し戻し審の焦点は、長期間みそに漬かった血痕に赤みが残るかどうか。弁護団は、赤みが失われるメカニズムを化学的に説明した鑑定書などを新証拠として提出。「袴田さんの犯人性は完全に否定された」と訴えた。一方、東京高検は、独自の実験では開始から1年2カ月後の試料でも血痕の周辺部に「赤みを観察できた」として「赤みが残る可能性を示せた」とする。
 袴田さんの姉ひで子さん(90)は「再審開始を願って闘ってきた。でも、裁判というのは開けてみるまで分からん」と話している。

特別抗告で審理長期化の恐れも
 東京高裁が袴田さんの再審開始を認めた場合、東京高検が最高裁に特別抗告する可能性がある。一方、再審開始を認めなかった場合は弁護団が特別抗告する。舞台が最高裁に移ることになれば、再審の可否をめぐる審理はいっそう長引く。
 地裁と高裁が再審開始を認めても、最高裁が再審請求を棄却した例がある。鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかった「大崎事件」で、最高裁は2019年、検察側の特別抗告を「理由がない」としながら、職権による調査に基づき、無実を訴えながら殺人罪などで懲役10年が確定、服役した原口アヤ子さん(95)の再審開始を認めた鹿児島地裁と福岡高裁宮崎支部決定を取り消した。
 三重県名張市で1961年に毒物が混入したぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡し、12人が入院した「名張毒ぶどう酒事件」では、名古屋高裁が2005年、奥西勝死刑囚の再審開始を認めた。検察側の異議申し立てで取り消され、最高裁が10年、さらにこれを取り消して審理を差し戻した。奥西死刑囚は15年、再審開始が認められないまま、89歳で医療刑務所で死亡した。
 日弁連は、再審開始決定に対する検察側の不服申し立ての禁止を求めている。

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