時論(3月26日)子どもの「科学の芽」育てたい

 先日、旧相良町出身でTDK社長などを務めた故山崎貞一さんが設立した財団による「山崎賞」の授賞式に出席する機会があった。小中高生や教員による自然科学分野の優れた研究成果をたたえる賞。防災やSDGsなど現代社会の課題を扱った研究もあり、その熱意と専門性の高さに目を見張った。
 注目論文数ランキングの低迷など、世界の中で日本の研究力は退潮傾向が続く。大学院博士課程の学生への経済的支援の拡充や若手研究者の不安定な雇用環境の解消などは急務だ。同時に子どもたちの「科学の芽」を育てることは、日本が将来にわたって国際競争力や多様化する社会課題に立ち向かう力を維持するために不可欠といえる。
 リチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞を受けた吉野彰さんが科学に興味を持ったきっかけは、小学生の時、担任教師に勧められ英国の科学者ファラデーの著書「ロウソクの科学」を読んだことだった。柔軟な好奇心を持つ時期だからこそ、心に深く刻まれたのだろう。子ども時代に芽生えた科学への志は、社会を変える独創的な研究の原動力になるのではないか。
 学校の理科教育や科学館でのイベントなどは、子どもたちの科学への関心や探究心を育む重要な場であり、不断の工夫が欠かせない。家庭でも身近な現象から、科学の面白さを発見したり話題にしたりすることができる。研究に地道な努力が求められることは当然だが、そのエキサイティングな魅力もしっかり伝えたい。
 先月、14年ぶりの日本人宇宙飛行士候補に選ばれた2人は理想の姿を「次の世代に夢や希望を与えられる飛行士」などと話した。子どもたちに宇宙への思いを積極的に語りかけてほしい。

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