俳誌1000号 節目に向けて 俳句結社「みづうみ」主宰/笹瀬節子さん(浜松市東区)
まっ青な空あるかぎり鳥帰る
浜松を拠点とする俳句結社「みづうみ」の5代目主宰、笹瀬節子さん(83)=浜松市東区=が詠んだ春の句。「雲一つ無い青空は、渡り鳥が北へ旅立つには最適。鳥たちは感覚を研ぎ澄ませ、この日と決めるのだろう。同時に、庭で楽しんでいたさえずりが消えてしまうということ。その寂寥[せきりょう]感も入り交じっている」と、春への思いを込めた。
俳誌「みづうみ」を1939年に創刊した原田濱人[ひんじん](1884~1972年)と、その後継者たちの足跡を紹介する浜松文芸館(同市中区)の特別収蔵展(6月18日まで)に、笹瀬さんのこの句の墨書も並ぶ。
入会したのは34歳のとき。幼稚園に通っていた長男の母親仲間に誘われた。2代目主宰の大橋葉蘭[はらん](1902~93年)に「初心者は放胆に」と教わった。「一句できると、見てもらいたくて」。月1回の句会が待ち遠しかった。
慌ただしい日々、目にした自然に心を寄せて17音に表すと、優しい気持ちになれる。「日本人の気質を取り戻すようだった」と振り返る。
「みづうみ」は戦時中、統制を受けて他誌と再編された。戦後の再出発を経て80年余り、浜松を代表する俳誌の一つとなった。毎月、遠州地域40カ所で句会を開く。20年前に5代目となった笹瀬さんは、その半数以上を指導する。
月1回の発行を続けてきた俳誌は、5月に1000号の節目を迎える。会員から日々送られてくる句を添削し、編集作業にも当たる。「この表現は言い過ぎているな、言い足りないな。状況説明に終わっていないか」。より良い句になるように導く。その根底に、濱人が創刊時に掲げた理念「物心一如」がある。「作者の心が物象と混然一体となったときに句の力が生じる。この視点が、風趣を捉える俳句には欠かせない」
1000号の発行を機に、笹瀬さんは主宰を交代する。「庭いじりの余裕ができるかしら。巡る季節の一瞬を詠んでいきたい」と心待ちにする。
(教育文化部・岡本妙)
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