時論(5月14日)小ネタで地域の希望創生を

 「KNT理論」というものを日本学術会議が編集協力する月刊誌で知った。KNTは小ネタ(KONETA)の頭文字。東大社会科学研究所の玄田有史教授らが提唱する「人口が減っても、地域はそう簡単になくならない。だが、小ネタが尽きると、あっという間に地域は衰退していく」との仮説だ。
 地域の小ネタとは何か。玄田教授は「地域の日常のなかにある身近な話題であると同時に、歴史、社会、文化、慣習などのエッセンスが凝縮されている」と説明する。
 要は、「こんな話、知ってる?」とつい他人に話したくなるような、地域の「ちょっといい話」ということだろう。それが地域の再生に欠かせない「対話」を生み、内外の交流を持続させるというのが、KNT理論の核心と理解した。
 少子化が加速し、半世紀後の日本は総人口が現在から3割減の8700万人となり、65歳以上の高齢者が4割を占める―。厚生労働省の研究所が描く「未来図」だ。働き手が減り、消費や税収が落ち込み、社会保障制度の維持も難しくなる。東京一極集中が進む中、特に地方は厳しい状況に追い込まれるという。何やら「お先真っ暗」のように思えてくる。
 縮小を前提に、社会構造や意識を変えていくことは不可欠だ。地域社会が縮みながらも前向きな活力を維持するために、小ネタを大切にしようというのは、現実的で的を射た視点ではないか。小ネタはお金や手間がかからず、誰もがいつでも関われる強みがある。
 行政が活性化や「にぎわい創出」を至上命題に多額の費用を投じる「大ネタ」よりも、永続性がありそうだ。何よりも、明るさやユーモアがあるのがいい。地域の希望創生への可能性を感じる。
(論説委員・川内十郎)

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