シニア雇用 年齢で判断されるのはあり?① 有識者インタビュー【賛否万論】

 仕事を求める70代が増えています。物価高や現役世代減少の影響で年金が目減りし、老後資金が確保できるのか不安感が高まっているようです。しかし「高齢」を理由に再就職を断られるケースは多く、自信を喪失したシニアの「ひきこもり」も問題視されています。しずおかジョブステーション東部のベテラン就職相談員、野中和夫さん(70)にシニアの雇用状況の実態や課題を聞きました。

野中和夫さん
野中和夫さん
野中和夫さんが講演や相談でシニアに助言している内容
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野中和夫さんが講演や相談でシニアに助言している内容
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野中和夫さん
野中和夫さんが講演や相談でシニアに助言している内容
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「経験こそ強み」と気付いて しずおかジョブステーション東部 ベテラン就職相談員 野中和夫さん

 再就職できないシニアの中には「年齢差別ではないか」と受け止める人もいます。

 差別か区別かは受ける側の問題なので難しいですね。年齢で切られるという話は聞きますが、いろいろなことを言われて就職できないと「やはり、年齢か」「年齢だから仕方ない」と年齢のせいにして落胆し、生き方にまで影響を与えてしまう場合もあります。
 男性は特に変なプライドが邪魔をして、比較的求人の多い警備や清掃の仕事は「できない」と敬遠する役員経験者もいます。仮に就職できても、20歳前後の若者から仕事の指導を受けるのをつらいと感じて辞めてしまい、「もう仕事はしたくない」と引きこもるシニアもいます。今まで頑張った40年が生かせないという人生の喪失感を味わう。仕事が見つからないだけなのに、自分の価値までも否定してしまいます。

 シニア版のひきこもりの背景は。

 30年以上前に「24時間戦えますか」というCMがありましたね。当時、企業戦士だった60、70代は、子育ては奥さん任せ、趣味がほとんどないまま仕事、仕事で来ていて、いざ退職して家庭に帰ると居場所がない。仕事がなくなると、24時間の「取扱説明書」がなくなり困ってしまう。だから、もう一度、仕事でもしようかなと考えるんです。でも、簡単には雇ってもらえない。どこにも居場所がない。切ないですよ。

 ひきこもりのシニアの数はどのぐらいですか。

 何割いるのかという数字を出すのは統計上は難しいですが、これまでの相談経験から言って相当数いることは確かでしょう。男性が多いのではないかと思います。女性はシニアになっても抵抗なく働き続けられる一方で、男性は家でテレビのリモコンを片手にソファに座っているだけという人は多いかもしれない。もんもんとして「やっぱり無理だよな」なんて言いながら。働けるシニアの男性が「宝の持ち腐れ」として家庭にあふれているのが実情でしょう。

photo03 県内行政機関の主なシニア向け就職支援窓口 ※相談無料
 就職相談に訪れるシニアの悩みは。

 ジョブステーションは、求人情報を紹介、あっせんするハローワークと連携していますが、役割が少し異なり、就職に関する疑問や不安を抱える人の相談に対応しています。
 悩みは100人に100通りあります。深く悩みを聞いて寄り添うことで、これからの働き方や生き方に関わるのが私たちの仕事です。就職活動がうまくいかないのは、悩ましいことが重層的に重なっているから。まずは悩み事を整理し、解決しないといけないんですよ。整理されると顔つきが変わり、働くことに意欲が出てくる。医師で言えば、病気ではなく病人を治すという感じです。
 シニアの雇用に消極的な企業が多いのも事実ですが、シニアの人には“武装”し、それを跳ね返すだけのエネルギーを持ってもらいたい。障害者雇用も同じですが、理解してくれる事業所に入らないと、結局、その先がつらくなります。シニア一人一人が成功例を積み上げて、少しずつ社会を変えていってほしい。でも、少しずつでは遅すぎるかもしれませんが。

 遅すぎますか。

 2040年には35%の人が65歳以上になります。これから、その世代がどんどん増えます。「もう仕事はいいや」と自信喪失したり、苦しみながら嫌々働いていたりしたら、もったいない。一度立ち止まって過去を振り返り、違う仕事でも頑張れる、自分にはものすごいスキルがあると気付けば明るく転職できます。
 家族も会社も自分の本当の良いところは知らないので、誰も自分を褒めてくれません。本人が気付かないから、就職活動でアピールできない。アピールできなければ仕事に就けません。これから先、どうするのかをしっかり考えないと負のスパイラルに陥ります。

 既に70代の相談が増えていると聞きましたが。

 今の人手不足の雇用情勢からすると、60代までは何とかなるんですが、70代になると間口が狭くなってきます。資格がなければ門戸が開かれない職種に関しては資格は必要条件ですが、仕事を絶対やり通すとか、ルールを守るなどのヒューマンスキルも大事です。
 例えば、スマホで育った若い世代とコミュニケーションが成り立たないという話は企業でよく聞きます。シニアは場の雰囲気をつかむのが得意。シニアが当たり前だと考えていたことが魅力になります。経験こそ強み。そこに気付いていないシニアは多い。
 資格などの再勉強は充実感を得るという面で勧めますが、正直、60代では遅すぎます。シニアのリスキリング(学び直し)は資格ではなく、経験の中で身につけたヒューマンスキル(人間力)を見直す方が良いでしょう。自分の宝を再発見し、気持ちが前向きになると、いろいろなことに挑戦できますが、気持ちがなえてしまうと惨めです。半年前に本当に会社役員をやっていたのかと思うような、覇気のないシニア男性もいます。

 企業側は空前の人材不足ですよね。

 逆に言うと、企業も年齢で判断するのではなく、直接会ってみて、70代でも元気な人がいると気付いてほしい。畑が違っても使える人はいるという認識を持つべきです。マイナスで考えないでほしい。今は若い人の人材育成がなかなか難しい時代です。すぐに転職してしまう。特に中小企業は人材がいない。シニアが人材になると気付き始め、うまく活用する企業も出てきています。企業側の意識も変わらないと。

 のなか・かずお 55歳で金融機関を退職し、キャリアカウンセラーに転身。延べ1万4000人の相談に応じてきた。今春まで12年間、しずおかジョブステーション東部のセンター長を務め、今も70歳で相談員として活躍する。静岡市駿河区出身。
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 シニア雇用の在り方について、あなたはどう考えますか。再就職の際に年齢だけで採否を判断されて苦労したという経験談や、逆に高齢者の採用をためらってしまうという企業側のご意見もお待ちしています。
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