「差別では?」年齢で不採用後絶たず 求職者不満【70歳の壁 シニア雇用を考える】

 年齢による差別では―。求職するシニア世代が年齢を理由に企業側から採用を拒否される事例が県内で後を絶たない。物価高や現役世代の減少に伴い年金が目減りする中、老後資金に不安を感じる70代から「年齢だけで判断されるのはおかしい」という声が上がっている。特に70代は健康状態の個人差が大きく、マッチングが難しいとされる。シニア雇用の実態を探った。

混雑するシニア対象の就職相談会。開始早々、全席が埋まった=5月、静岡市駿河区のハローワーク静岡
混雑するシニア対象の就職相談会。開始早々、全席が埋まった=5月、静岡市駿河区のハローワーク静岡


 「実は弊社は70歳以上は採らない方針なんです」。県内に住む男性(70)はある企業の採用担当者と面談した際に打ち明けられた。表向きは「年齢不問」だった企業。その場では言えなかったが「年齢差別では。物価が上がっても年金はそんなに上がらない。働きたい人が働ける環境をつくるべき」と不満を募らせる。

 ■「本人見て」
 別の男性(76)は昨年7月に配達の仕事をやめた。「車の運転で判断能力が衰えるから」と会社から通告されたためだった。自分では能力に問題ないと考えているが、「雇う側の考えだから」と受け入れた。
 ところが、別の仕事を探して他の企業に電話をかけても、年齢を答えた途端に「採用は難しい」。「面接だけでもやって、本人を見てから判断してほしいよ。それで駄目なら諦めがつくのに。働く気持ちがあるのにつらい」と打ち明けた。
 企業にとっては労災発生率の高さや認知機能の低下などがシニア雇用のリスクとされる。ある行政関係者は「法的には採否を年齢で決めてはいけないが、年齢で門前払いする企業があるのは事実。企業は当然、長く働ける若い人を希望する」と話し、面接や試用を通じて見極めてもらうしかないとする。

 ■断る口実
 企業側には別の言い分もある。採用担当者は「能力的に給料に見合わないと判断した場合、断る理由に年齢を使う場合もある。個人差があり、高齢でも雇いたい人はいる」と明かす。
 県の就職支援窓口「しずおかジョブステーション東部」の就職相談員野中和夫さん(70)は「不採用の理由を年齢のせいにされると、人生を否定されたように感じて落ち込む人もいる。シニア、企業双方の意識改革が必要」と指摘した。  年金目減り 県内就職支援 相談増  県内のシニア向け就職支援相談窓口では近年、仕事を求めて相談に訪れる70代が軒並み増えている。65歳までの継続雇用の義務化や70歳までの就業機会確保の努力義務化に伴い再就職時期が高齢化しているほか、物価高で年金以外の収入を求めるシニアが増加している可能性があるという。
 ハローワーク静岡(静岡市駿河区)は昨年6月からシニア向け就職相談会を毎月開催。求職者が採用担当者と面談し、仕事内容や待遇などをやりとりする。毎回早々に席が埋まり、部屋の外まで人があふれる混雑ぶり。来場した男性(70)は「年金は思った以上に少ない。老後の資金も考えて働かないと」と嘆いた。
 ハローワーク静岡や浜松によると、過去5年でシニアの求職者は大幅に増え、特に70代の伸びが顕著。静岡市のネクストワークしずおかや沼津市のしずおかジョブステーション東部でも70代の相談が目立つ。同所の担当者は「物価高の影響で小遣い程度のお金を稼ぎたい70代が昨年から非常に増えている」と話す。
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 中高年の再就職に関する課題を「70歳の壁~シニア雇用を考える」として随時取り上げていきます。

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