シニア雇用 年齢で判断されるのはあり?② 有識者インタビュー【賛否万論】

 シニア雇用を考える上で、年金などの老後資金と働き方は切り離せない関係です。健康維持や社会とのつながりを持つという理由で仕事を探すシニアもいますが、年金が目減りする中で生計維持は仕事の大きな動機になっています。ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の小田切克子さん(53)=浜松市中区=に老後資金の観点から年金と働き方の在り方について聞きました。(社会部・大橋弘典)

小田切克子さん
小田切克子さん
受給開始を遅らせた場合にもらえる毎月の年金額のイメージ
受給開始を遅らせた場合にもらえる毎月の年金額のイメージ
小田切克子さん
受給開始を遅らせた場合にもらえる毎月の年金額のイメージ


年金繰り下げ上手に活用を 社会保険労務士 小田切克子さん
 Q 2019年に「老後資金2000万円問題」ってありましたよね。金融庁の報告書で老後は2000万円必要になるとされ、騒動になりました。あの問題は何だったのでしょうか。
 国の各種調査を踏まえると、高齢世帯の平均的な支出と収入の差額が毎月5万円程度の赤字になります。平均寿命まで生きるとして毎月5万円ずつ貯金を取り崩すと約2000万円の資金が必要になるということです。

 Q 老後資金は年金だけでは足りず、2000万円分は仕事をして稼がないといけないということでしょうか。
 仕事だけでなく資産運用や副業・兼業など収入として考えられる「蛇口」をたくさん持つことが重要ですし、退職金制度のある会社であれば退職金も収入として見積もることができます。また、2000万円という数字が独り歩きしていますが、あくまでも平均を言っているだけで生活費次第。2000万円で足りる人もいれば足りない人もいます。
 老後の生活費は現役時代の約7割に落とすと破綻しづらいと言われます。固定電話をやめたり、携帯電話の料金を見直したり、維持管理費がかかる車を1台にするとか、大き過ぎる住居は売却するということも節約につながります。その生活費をまかなうため、どのぐらい働いて稼げばいいのか、年金はどのぐらいもらえるのかを計画的に考えておく必要があります。

 Q 物価が上がっていますが、もらえる年金の額はどうなるのでしょうか。
 公的年金には国民年金と厚生年金があり、基本的には毎年、受給額を変えています。実質の手取りが大きく減らないように賃金や物価の上昇分を一定程度反映させる「マクロ経済スライド」という仕組みを取り入れています。ただ、完全に連動せず、賃金や物価の伸びよりも少し低い伸びで改定されています。
 公的年金は「賦課[ふか]方式」を採り、働いている現役世代の払う保険料を高齢者に仕送りするような形になっています。

 Q 少子高齢化で、分け合うパイの大きさ(現役世代の保険料収入)が小さくなり、パイを分け合う高齢者が多くなれば、高齢者1人に分配されるパイは小さくなりますね。
 その通りです。そこが賦課方式の難しいところで、日本が高度経済成長期だった昭和30、40年代は、働く世代が多くて年金をもらえる世代が少なかったので問題のないシステムでした。ところが、今は働く世代ともらう世代の人口比が大きく変わりました。賦課方式にもインフレに強いという利点はありますが、無理が出てきています。
 賦課方式をガラガラポンして自分で積み立てた年金を将来自分で受け取る形に直すのは、関係者間の利害調整が難しく至難の業。政治的なハードルが高く、実質不可能でしょう。賦課方式を維持しつつ現役世代も年金をもらう世代も両方が納得する方法を探る以外、なかなか解決するのは難しいと考えます。
 ただ、公的年金は亡くなるまで確実にもらえる終身年金です。金額は思うようにならないかもしれませんが、一生涯もらえると考えれば安心感はあります。厚生年金は事業主も保険料を負担するので、平均寿命まで生きなくても十分に元は取れると言えます。

 Q 年金をもらい始める時期を遅くすると、受給額が増えるんですよね。
 「繰り下げ」と言います。もらい始める時期を遅くすると、その分、もらえる年金額が増えます。最長で10年間、75歳まで遅らせることができ、その場合はもらえる年金額が1.84倍になります。できれば長く働いて受給開始年齢を遅らせてもらうと、国民全体が助かりますよねというのが国の姿勢です。

 Q 働こうとしても年齢で不採用にされるという声を聞きますが、70代を含めた再就職のミスマッチ解消に向けて、どのようなことが求められますか。
 高齢者は特に健康面の個人差が大きく、日本は解雇や雇い止めが難しい制度なので、企業は高齢者の採用にどうしても慎重になります。企業側も当然、年齢だけで切りたいわけではなく、良い人材であれば高齢者でも採用したい気持ちはあるでしょうが、雇ってみて駄目でしたと言うわけにもいかないのです。
 ただ、トライアル雇用など、いろいろなやり方があります。まずは期間限定で採用し、お互い納得した上で働くという仕組みも必要でしょう。シニア側も事前に職場に足を運び、どのような人が働いているのか、実際の働き方を見るとミスマッチは多少減ってくると思います。

 Q 継続雇用の実態はどうでしょうか。
 継続雇用では給料が定年前の6、7割になるのは覚悟しないといけません。会社から再雇用時の給料を示されると「ほとんど仕事は変わらないのに、こんなに下がってしまうのか」と驚く人は多いです。再雇用の契約を結ぶ際にいったん保留し、転職したらどのぐらい給料をもらえるのかをハローワークで調べてみたけれど、高い給料の転職先が見つからず「とりあえず継続しよう」という人も結構います。

 Q 将来もらえる年金の金額は分かりますか。
 日本年金機構の「ねんきんネット」というウェブサイトで将来の見込み額は試算できます。マイナンバーカードのマイナポータルと連動し、以前より年金を試算しやすくなっています。特に50歳を超えると、よりリアルな受給額が示されます。
 現役世代は、年金を何歳でもらい始めるのか時期を変えてシミュレーションできるので、年金の受給開始時期や将来の働き方を考える上で参考になります。もらえる額は配偶者の年金加入状況によって変わるので、夫婦で一緒に試算することをお勧めします。より正確な試算をしたい場合は年金事務所で事前に予約して相談してください。

 おだぎり・かつこ 20代で学習塾講師を務め、1999年に行政書士事務所に転職。2009年に社会保険労務士・ファイナンシャルプランナーとして独立した。企業のハラスメント対策や個人の家計相談などに取り組む。浜松市中区出身。

70歳に遅らせれば42%アップ
 物価高や現役世代の減少に伴い、もらう年金額が目減りしているが、もらい始める時期を遅らせれば毎月の年金額が増える仕組みになっている。最長75歳まで受給開始時期をずらせば毎月の年金額は1.84倍に増え、目減り分を補う効果もある。ただ、もらい始めるまでの収入の確保が必要。健康で働く意欲のある70歳前後のシニアの働ける環境の整備が課題になりそうだ。
 年金をもらい始める時期は通常65歳だが、遅らせる(繰り下げ)ことも早める(繰り上げ)こともできる。遅らせるのは75歳まで、早めるのは60歳まで可能。毎月の年金受給額は遅らせると増え、早めると減る。例えば、70歳に遅らせると通常と比べて1.42倍に増え、60歳に早めると0.76倍に減る。
 ただし、自分が何歳まで生きるのかは分からないので損得勘定で受給開始年齢を判断するのは難しい。
 社会保険労務士の小田切克子さんによると、遅らせた場合、もらい始めた時点から亡くなるまでが12年以上になると得をする。
 配偶者など家族に付く扶養手当のような「加給年金」の対象者は、もらい始める時期を遅らせると損をするケースがある。妻の年金だけ繰り下げたり、夫の国民年金だけ繰り下げたりすることができるので、工夫が必要になるという。
 また、もらい始める時期を遅らせて毎月の年金受給額が増えても税金や社会保険料が差し引かれ、手取りが思ったほど増えない場合がある。税金や社会保険料を差し引いた年金額を試算できるウェブサイトがあり、参考になるという。

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 シニア雇用の在り方について、あなたはどう考えますか。再就職の際に年齢だけで採否を判断されて苦労したという経験談や、逆に高齢者の採用をためらってしまうという企業側のご意見もお待ちしています。
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