シニア雇用 年齢で判断されるのはあり?③ 有識者インタビュー【賛否万論】

 企業側は空前の人手不足なのにシニア世代が再就職を断られるケースが相次いでいます。年金が目減りして仕事探しを余儀なくされるシニアもいる中で、こうしたミスマッチの解消には何が必要なのでしょうか。全国のシニア雇用の事情に詳しいリクルートジョブズリサーチセンター長の宇佐川邦子さん(53)に聞きました。  企業も思い込みなくして リクルートジョブズリサーチセンター長 宇佐川邦子さん

宇佐川邦子さん
宇佐川邦子さん

 Q 年齢を理由に仕事が制約されると感じているシニアが多いですが、解決する上でのポイントを教えてください。
 企業側の感覚としては定年を前後にどこまで働いてくれるかを考えた時、できるだけ長く働ける若い人がほしくなるので、今まではシニアが損をしやすい面がありました。ただ、現時点で言うと、空前の人手不足なので定年をなくす企業もあります。特に中小企業は柔軟性があり、個人を見て採用する企業が多くなっています。
 これからはさらに改善が進むと考えます。働いているシニアの姿が可視化されてきているからです。少し前までは居酒屋で65歳を超える男性がいても調理スタッフやオーナーで、ホールで働く事例はほとんどありませんでした。ファストフード店でも70歳前後の女性が店頭に立つことはなかったです。でも、今は増えていますよね。コンビニのレジでさえ年配の男性が立っています。普段生活している中で、自分より年齢が高い人が働いている場面が「見える化」されてくると、それぞれの人が持つ年齢という無意識の思い込みが少なくなってきます。  
 Q 思い込みとは。
 例えば、ファストフードは若い人が主な客層で、早く商品を提供するには機敏に動けて体力がある若い人が必要だと思い込むと、店側は若い人でないと雇えない、シニア側も仕事の募集があっても自分向きではないと考えて目に入らない。一方、近くで活躍するシニアが見えるようになると企業側も雇ってみようかなと考えるし、シニア側も駄目かも知れないけれども応募してみようとなります。
 今はだいぶ減りましたが、一昔前の子育て中の女性に同じような問題がありました。人手不足と言われ始めた約10年前、子育て中の女性を企業に勧めたら「急に辞める」「子育てしながら働くのは無理」と拒否されたり、子育て中の女性が働きたくても、その親から「私の時代はそんなことをしなかった。子どもがかわいそうよ」と言われたりしていました。
 今、シニアも同じようなことが起きていて、家族が悪気なく、おじいちゃんやおばあちゃんに「無理しなくていい」とおもんぱかって言ったつもりでも、相手に対して「私は無理ができない年齢なのね」と追い込んだり「働くのは無理なの」という意識を植え付けてしまったりします。
 Q 実際には門戸が開かれていても、シニアが不採用の理由について「年齢だ」と思い込んでしまうという話を聞きます。
 ちょっと違う要素もあって、企業側が欲しているものとシニアがアピールするものがずれることがあります。シニアは過去にどういう経験をして、どういう実績が上がった、こういう資格を持っていると言いたがりますが、企業側が求めているものは体力やコミュニケーション能力、柔軟性です。パソコンや作業スピードはそれより下位。職場はいろいろな人がいるから、上手にチームワークで働けるか、その人がチームや組織の中でどんな役割を果たしてきたのかを企業側は評価したいのです。
 年下の上司に成功体験を押し付けるのではなく、少しアドバイスして一歩引くとか、誰かができないことを代わりにやってあげるとか、できないことをできないとしっかり受け止めた上で努力する姿勢とかを本当は知りたいのに、○○の資格を持っていると言われても「それはそれでありがたいんだけど、それよりも…」とすれ違ってしまうケースが結構あります。
 Q 実際には年齢以外の理由で不採用なのに、企業側が年齢を理由に断るケースもありますよね。
 日本の企業はその辺りが問題だと思います。企業は本当の落ちた理由を伝えるべきですが、分かりやすい理由で断り、仕事に対してどんな力が足りないのかをちゃんと言わないこともあります。
 若い人に対しても同じ。不採用の人に対して、わざわざ理由を細かく言っても傷つけるだけだとか、不採用の理由を伝えるとなぜなのかと突っ込まれて面倒そうだと考えて、安易な年齢や性別を理由にしてしまう。だけど、年齢や性別はどんなに努力しても変わらないものです。それを理由にされたら、人間は傷つきます。
 Q それで落胆し、仕事を探すのをやめて家に引きこもるシニアがいます。
 分かりやすいもので言ってしまうんですよね。「あなた自体が駄目と言っているわけではなく年齢がね」という言い方。性別を不採用の理由にするとまずいという認識はだいぶ広まっていますが、年齢は定年制が残っているので言い訳にしやすい。でも、これから変わっていくと思うし、それでは駄目だと気付く企業は徐々に増えています。
 採用の判断は、その仕事や職場に対して適合できるか、能力発揮できるのかどうかの見極めが大事ですが、それは年齢で決まるものではありません。先に年齢が来てしまうとしたら、これだけ少子高齢化が進んでいる日本の企業としては致命的です。
 コミュニケーション力が高いシニアを採用したら職場の雰囲気が良くなり、若い世代を含めた従業員全体の定着率が高まったという事例がよくあります。企業も最初に年齢だけで判断するのではなく、他の世代と同じように面接し、仕事を体験してもらって、できるだけ、その人の人となりや業務のやれるやれないを見極めるところにしっかり時間を使う方がいいと思います。本当に人材不足なので、待っていれば若い人が来る時代ではないですから。   積極採用は3割 業種で温度差
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 人材不足感が強まる中でもシニア雇用に積極的な企業は全体の約3割に過ぎない―。リクルートが2月に実施した企業向け全国調査で、こんな傾向が浮かび上がった。積極的な企業は飲食業やサービス業で多数を占め、「求める人材像に合えば年齢は関係ない」とする企業が多かった。業種によってシニア雇用の積極性に温度差があることも浮き彫りになった。
 調査はインターネットで全国600社の経営者や採用担当者らを対象にした。
 従業員数が不足していると回答した企業は「建設、土木、運輸、倉庫」で60.5%、「各種製造」で53.5%と半数を上回った。「IT関連、広告、印刷」が49.2%、「フード、販売、サービス」が45.1%と続き、「不動産、金融」は29.2%と低かった。
 一方、シニア雇用(パート・アルバイト)に積極的な企業は「フード―」の44.4%が最多で、「建設―」の29.1%や「各種製造」の35.2%を上回った。
 シニアのパート・アルバイト採用に積極的な企業のうち48.5%が「求める人材像に合えば年齢は関係ない」と答えた。また、シニア雇用(パート・アルバイト)の際に何を求めるかを聞いたところ「体力」37.8%、「理解力」32.8%、「コミュニケーション能力」30.2%が上位になった。「記憶力」は20.5%、「パソコンなどの操作」は27.3%だった。
 うさがわ・くにこ リクルートグループに入社後、一貫して求人領域を担当してきた。人材の採用や定着などをテーマに全国各地で講演。経済産業省や厚生労働省の審議会などで委員を務める。山口県出身。
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 シニア雇用の在り方について、あなたはどう考えますか。再就職の際に年齢だけで採否を判断されて苦労したという経験談や、逆に高齢者の採用をためらってしまうという企業側のご意見もお待ちしています。
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