浜松・中野市長就任2カ月 大雨被害対応で決断力 自民と経済界の“綱引き”懸念

 浜松市の中野祐介市長が就任して1日で2カ月。16年ぶりのトップ交代とあって、まずは現場に足を運び、市政課題の把握に努めている。6月2日の台風2号接近に伴う大雨被害への対応では早々に被害現場を視察し、本年度一般会計5月補正予算に急きょ、災害復旧費として50億円を追加するなどスピード感や決断力を発揮。行政経験豊富な実務型としての力をうかがわせた。

大雨による土砂災害現場を視察する中野祐介市長(手前右)=6月上旬、浜松市北区引佐町渋川
大雨による土砂災害現場を視察する中野祐介市長(手前右)=6月上旬、浜松市北区引佐町渋川


 5月補正予算案発表を翌日に控えた7日、中野市長は出張先の都内から、電話やウェブ会議で市役所の財務部局とやりとりを重ねた。目的は大雨被害の災害復旧費。市民生活に影響を与え、出水期を控えて二次災害が懸念される中、何とか5月補正に計上し、早期に対策を進めようと、ぎりぎりまで調整を進めた。
 市内では土砂崩れで1人が死亡し、多くの道路で通行規制が続く。5日には土砂災害現場を視察して被害状況を確認し、当初予算の災害復旧費30億円では賄えないと判断。最終的に64億円規模だった5月補正に50億円を上乗せし、8日の発表会見では「被災者が速やかにかつての日常を取り戻せるよう全力で取り組む」とスピード感を強調した。
 元衆院議員で行財政改革で強いリーダーシップを発揮した鈴木康友前市長や、同時期に就任し、ダイコンを使った会見を行うなどリニア中央新幹線工事問題で存在感を示す難波喬司静岡市長と対比されることも少なくない。
 ただ、本人は「パフォーマンス的なことはやろうとは思っていない」と意に介さない様子。北海道など5カ所の地方自治体勤務の経験から現場重視をモットーに、描く市長像を「先頭で引っ張るよりも市民や民間の力を最大限に引き出す差配に重点を置く」と公言する。5月の定例記者会見で市政運営の独自色を問われた際には「市民や市にとって必要なことをどんどんやる。それによってじわじわと中野カラーが出てくると思う」と成果で示す意向を示した。
 元官僚のお堅いイメージがつきまとうが、市幹部は「ユーモアもあり、話をしっかりと聴いてくれる」との印象。災害対応を目の当たりにした別の幹部も「緊急事態の対応能力と決断力はさすが。前市長とは違うリーダーシップ、力強さがある」と実感を込めた。
 一方、対立する関係だった自民党と経済界が擁立した経緯から、市政運営の方向性を危惧する声も根強い。現役世代への投資を重視する自民に対し、経済界は将来のための行革推進を求めるなど思惑は異なる。
 市議会5月定例会を終え、複数の非自民市議からは「オール浜松と言うが、やはり自民を見ている」と不満の声も。対する自民関係者は経済界との距離感を懸念し「言いなりにならないか心配だ」と気をもむ。自民と経済界の“綱引き”を横目にベテラン市議は「両者を気にせず、市民目線で市政を進めてほしい」と市民の思いを代弁した。
 (浜松総局・宮崎浩一)

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