時論(7月9日)子どもの命 守ってこそ学校だ

 東日本大震災の津波で児童・教職員計84人が犠牲になった宮城県石巻市立大川小の裁判を巡るドキュメンタリー映画「『生きる』大川小学校津波裁判を闘った人たち」を先月、静岡市内のミニシアターで見た。
 映画の中で遺族が語った、裁判官が言ったとされる「学校が子どもの命の最期の場所であってはならない」の言葉は重たい。子どもの命を守ってこその学校だという大原則を、改めて胸に刻んだ。
 大川小では、一部児童の遺族が学校側の対応に過失があったなどとして市と県を提訴。2019年に事前防災の不備を認める仙台高裁判決が確定した。遺族らを突き動かしたのは、「なぜ、子どもたちは地震発生から50分もの間、校庭に留め置かれたのか」「なぜ、先生たちは1分ほどで駆け上れる裏山に避難させなかったのか」など、多くの「なぜ」の答えを見つけたいとの強い思いだ。
 映画は、保護者説明会の様子や「本当はやりたくなかった」という遺族もいた裁判の経緯を丹念に追う。親たちが“わが子の代理人”となり、校庭から裏山に何度も走って時間を計測するなど、懸命に証拠を集める姿は特に印象深い。
 自然災害に限らず、事故や不審者侵入による凶行、いじめなど学校管理下での子どものリスクは多岐にわたる。気掛かりなのは、命を守り切る取り組みをおろそかにしかねない、教員の多忙な現状だ。大川小の場合、遺族は真実を追い求める中で、教職員集団の人間関係の問題も重要視した。
 国は南海トラフ巨大地震が今後30年以内に70~80%の確率で発生するとし、津波の高さは静岡県内で最大30メートルを超えると想定している。大川小の教訓は尽きない。
 〈論説委員・川内十郎〉

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