生理中の水泳授業、どう臨む? 教員向けの指針ほぼなく【NEXT特捜隊】

 読者から寄せられた疑問に応える静岡新聞社「NEXT特捜隊」に、静岡県内在住の女子中学生の保護者から「生理(月経)中の水泳授業」について質問が届いた。「娘の通う学校では、水泳授業を1度休むと500メートル泳ぐ補習が課されます。そのため生理中であっても無理をして入水しています。他の学校では授業を休んだ際にどのような対応をとるのでしょうか。子どもたちが安心して休めるようにしてほしい」。授業の在り方や、生理中の水泳が体に与える影響について取材した。(デジタル編集部・安達美佑)
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補習がある学校も
 「500メートル泳ぐ」という補習の狙いは―。投稿者の子どもが通う学校に確認したところ、担当者は「教育内容は管理していて、生理中でプールに入れない時も適切に対応している」との回答にとどまった。この学校で過去に体育の授業を行った経験のある教員によると、補習内容は教員同士で話し合い、1回の授業で泳ぐ合計距離を反映させていたという。仮に補習に参加できないケースは、子どもと相談の上で別の日程に変更して行っていたという。
 別の中学校で実務経験のある体育教員は「生理中に限らず、けがなどで授業を休んだ場合、実技の補習は可能な範囲で行っているのではないか」と話す。外部コーチに水泳の指導を委託するケースなどは実施が難しいとされるが、子どもたちが授業に参加する機会を設けるとともに「実力を踏まえ適切に評価するため」(他の体育教員)との声も聞かれた。限られた人員や環境の中、学びの機会を保障しようとする取り組みとして補習が捉えられているようだ。
 中学や高校の学習指導要領によると、水泳授業の際は「体調に留意する」と記されているが、「生理」に関する記述はない。一方、日本学校保健会は指針として「学校における水泳プールの保健衛生管理」を県内の全校に配布しているという。こちらでは「生理中のときには、清潔を保つなど衛生面に十分注意し、痛みや出血量が多いような重い生理(月経困難症)のときには、水泳を休ませることも考慮すべき」と記されている。

現場判断
 実際に現場ではどのように授業が行われているのだろうか。実情を探るため、県内全35市町の教育委員会にアンケートを行った。
 結果によると、「生理中の水泳授業について、教員対象のガイドラインが存在するか」との質問に、34市町の教委が「存在しない」と回答。授業への参加や補習の内容などについて、現場判断に委ねられている現状が示された。沼津市教委は改めて「学校における水泳プールの保健衛生管理」を配布しているとしたが、指導の詳細は把握していないと説明する。
 各教委として望ましいと考える生理中の水泳授業について尋ねたところ、静岡市教委は「見学の申し出があった際は、体調に応じて代替となる活動を選べるようにする。その上で、授業の目標に沿い、泳ぎのポイントをメモするなど状況に応じた活動を通し、学習の機会を確保する」と答えた。評価について牧之原市教委は「技能を高めることだけが目標とはならない。『する』だけでなく、『みる』『知る』『支える』の見方・考え方を働かせ、体育科のつけたい力を目標にして個別の課題を設定し評価することが必要」とした。
 調査結果を保護者に伝えると「思春期の子が我慢をしながらプールに入ることがなくなるといい。授業の在り方を考えるきっかけにしてほしい」と期待した。

医学的には入水可能 適切な知識と対処法示して
  photo03 聖隷健康サポートセンターShizuoka所長の鈴木美香さん
 児童や生徒は生理中、どのように水泳授業と向き合えばよいのだろうか。
 日本産科婦人科学会が1989年に作成した「月経期間中のスポーツ活動に関する指針」によると、生理中にスポーツを禁止する必要はない。水泳については「小学生は強制的に行わせるべきではない。中学生以上は『生理用品』を使用せず、経血量が減少してから行う方が良い」としている。
 産婦人科専門医で聖隷健康サポートセンターShizuoka(静岡市駿河区)所長の鈴木美香医師(53)も、プールの水で腟(ちつ)から感染を起こすことはないとした上で「入ることは医学的に問題ない」とする。しかし「生理の痛みや出血は本人にしかわからない。教員が正しい知識や対処法を理解し、子どもの当日の体調や意思を尊重してほしい」と強調する。
 鈴木医師によると、生理中にプールに入っても水中で血が流れ出ることはほとんどないが、入水前後のケアが重要になるという。プールサイドに色の濃いタオルを持ち込んだり、プールから上がってすぐにタオルの使用を認めたりするなどの配慮が欠かせないと指摘する。
 指導者がそのような知識を得る機会や、普段から子どもと生理現象について壁をつくらず話せる環境づくりも必要とする。さらに痛みや出血量などで日常生活に支障が出ている場合、月経困難症の可能性も視野に「困っている方はハードルを感じず早めに相談してほしい」と話した。
 

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