郷愁漂う昭和の喫茶 評判 “古くて新鮮”若者も魅了 沼津のケルン

 「昭和すぎる」「ザ・昭和」と評判の店が沼津市にある。沼津駅南口、沼津新仲見世商店街の喫茶・軽食ケルン(大手町)。50年以上ほとんど変わらないという店内は郷愁が漂う。過ぎた時代を懐かしむ中高年に加え、“古くて新鮮”な世界に引かれて若者も集う。

「昭和すぎる」と評判の店内で客と談笑する藤原さん=沼津市大手町のケルン
「昭和すぎる」と評判の店内で客と談笑する藤原さん=沼津市大手町のケルン


 トンネルのような通路を通り抜け、重いガラス扉を開くと、洋風の名前に似つかない和風空間が現れる。年季の入ったテーブルと椅子。障子の奥には、坪庭がひっそり。客が土産として持ち込んだ日本人形やこけしが、そこかしこに並ぶ。
 「実家に帰ったように感じて落ち着く。一日中いられる」。近くに住む石田美智枝さん(69)は毎日のように訪れ、オムレツを味わう。65年以上にわたり店に立ち続ける店主の藤原美恵子さん(85)は「タイムスリップしたと言われるが、店と私は変わらない。外が変わっただけ」と笑う。
 藤原さんの父、平野平八郎さん(故人)が1935(昭和10)年に開業した。店名の由来はドイツの都市で、「お客さんによく聞かれるけど理由は分からない」(藤原さん)。五十数年前に洋風から和風に改装して以降、趣は変わらない。改装を考えるたびに「この雰囲気が良いから変えないで」と客に懇願された。
 かつては深夜まで営業し、仕事終わりの芸者のたまり場だった。常連客が多いが、近年は昭和ブームを背景に若者も増えた。スマートフォンで店のあちこちを撮影して帰る。SNSの影響か、初めて訪れた若者がメニューを見ずに注文することもある。
 750円のサービスランチとクリームソーダが看板メニュー。生レモンを搾るレモンスカッシュも人気だ。藤原さんは「お客さんに恵まれてここまで続けることができた」と穏やかに語る。後継者はいない。先のことは考えず、日々感謝の気持ちを胸に客を迎える。「1人で営業しているからお待たせしてしまうかもしれない。古くてぼろぼろだけど、ゆっくりしてほしい」。
 (東部総局・矢嶋宏行)

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