大井川鉄道 被災から1年 復旧へ「乗って応援」を【記者コラム 黒潮】

 大井川鉄道の台風15号被害から9月で1年を迎える。大井川本線の家山―千頭間は運休が続く。県庁では公共交通としての在り方を協議する検討会が開かれ、地元有志が復旧に向けた署名活動を展開しているが、資金面の支援の見通しをはじめ、全線復旧のめどは立っていない。大鉄が流域にとってなくてはならない貴重な観光資源であることは言うまでもない。われわれ沿線住民が今できることは何か考えたい。
 被災した鉄道の復旧に向け、私たちが身近にまずできる支援は何か。それは「乗車」だと思う。大鉄の名物広報、山本豊福さん(58)は被災から丸1年になる9月、同じく自然災害で不通区間が残る熊本県の地方鉄道を訪ねる応援ツアーに同行する。自社も被災しているのにもかかわらず、ちょうど台風被害があった日にツアーを計画したのは「乗って応援する」という強い思いが込められている。
 若手社員も奮闘している。6~7月に期間限定で運行した電気機関車が旧型客車をけん引する「客車列車」は、通常ダイヤで昭和の雰囲気を味わえると反響を集めた。20代の社員がスピード感を持って企画を展開している。
 現状の大鉄は本数も少なく、買い物や通院といった日常利用は現実的ではないかもしれない。全線復旧に向けた署名活動に取り組む「大井川鉄道全線復旧を支援する会」の会合でも、「生活の足として鉄道の必要性を感じていない」といった声が出たのも事実だ。ただ、未来に鉄道を残していくためには、乗車につながる行動や働きかけが地元にとって不可欠だと思う。
 コロナ禍や物価高の影響で、小さな圏域での観光機運は高まりやすいはずだ。大鉄は、きかんしゃトーマス号だけではない。今夏、家山駅ホームで生ビールの飲み放題が楽しめるビール電車が始まった。門出駅に隣接する「KADODE OOIGAWA」では週末のビアホールイベントもある。国内唯一のアプト式鉄道に乗れる井川線ももちろん健在だ。この夏、大鉄に乗って出かけてみては。今からでも遅くない。
 「まずは乗ってみる」。ハードルは決して高くない。わが家も計画中だ。
 (島田支局・寺田将人)

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