時論(8月13日)ブリは救世主となるか

 地球温暖化に伴う海水温上昇の影響で、国内の漁獲に変化が起きている。その代表格がブリだ。暖水系の魚であるブリが東北や北海道で多く水揚げされるようになり、日本全体でも資源量が増えている。
 国の統計では、2022年の魚介類の養殖を含む漁獲量は前年比7・5%減の約386万トン。比較可能な1956年以降で最低を更新した。温暖化などによる海洋環境の変化は、全体的には多くの魚種で不漁をもたらしている。
 こうした状況の中、ブリへの注目度が高まり、成長につれて呼び名が変わる出世魚がさらに“出世”したようだ。水産や水産加工業界の救世主となるか。取れる魚を有効活用し、消費者にも積極的にアピールしてほしい。
 北海道では漁協などがブリのブランド化を進め、新たな「地魚」として売り込みに躍起だ。函館市では、名物のイカの漁獲量減少が著しい中、3年前からブリの消費拡大を目指すイベント「ブリフェス」が開かれている。市民を巻き込んだ盛り上げも重要だ。
 政府は2030年までに水産物の輸出額を1兆2千億円に到達させる目標を掲げ、ブリは成長の有望株。だが、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出方針を受けた、中国税関当局による検査強化が影を落とす。水産物の対中輸出は昨年、国別首位で全体の2割強を占める。検査強化が続けば、ブリも影響を免れないだろう。
 はごろもフーズはマグロ・カツオ類の漁獲減を受けた安定供給策として、主力製品「シーチキン」の原料に初めて国産ブリを採用し、近く発売する。サンマは今季も不漁が見込まれ、食卓でブリの出番が増えるかもしれない。
(論説委員・川内十郎)

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