生成AIを学校現場で使うのはあり?有識者インタビュー①【賛否万論】

 情報技術が飛躍的に進化する中、人間と会話しているかのように応答できる対話型の生成人工知能(AI)が登場し、教育界にも衝撃を与えています。夏休みの宿題に利用されるのではないかとも話題になりました。文部科学省は夏休み前の7月、暫定的なガイドラインを各教育委員会に通知しましたが、生成AIを使ったことがなかったり、利点や欠点をよく知らなかったりする教員や保護者が多いのが実情です。学校現場でどのように活用すべきでしょうか。まずは、生成AIに詳しい静岡大情報学部の狩野芳伸准教授(情報理工学)にその仕組みや特性について聞きました。(社会部・大橋弘典)

狩野芳伸さん
狩野芳伸さん

 仕組みは〝ものまねマシン〟 静岡大情報学部准教授 狩野芳伸さん 生成AIって、いったい何ですか。メリットやデメリットを知るために、生成AIの仕組みを知りたいのですが。

 チャットGPTなどの生成AIは、機械学習でつくられています。機械学習が何なのかということですが、端的に一言で言うと、超ものまねマシンです。正解があると、そのものまねをしてくれます。
 例えば、画像を用意し、この絵は犬なのか、猫なのかを聞いて、人が○×を付けます。絵を何万枚、何百万枚用意すると、それを学んで、知らない画像でも前に見た猫の絵に7割似ているから7割は猫かなと判断するのが機械学習の基本です。機械学習の方法は星の数ほどありますが、枠組みは同じで関係性を表面的に学びます。似ているから分かるという世界です。  入力工夫し性能向上
 用意する画像が多いほど精度は高まりますか。
 学ぶために手本として使う学習データや訓練データは多ければ多いほど見たことのないバリエーションが増えますので、普通はデータを増やすほど機械学習の性能が上がります。機械学習では、正解があるのか、正解のあるデータをどのぐらい用意できるのかというのがポイントになります。ただ、正解は誰でも同じとは限りません。
 ゲームの勝ち負けとか物理法則は誰でも同じ結果が出ますが、ある絵が犬か猫かは必ずしもみんな一致するわけではなく判別しづらい絵もあります。問いによっては、人の認知能力、つまりわれわれの脳が正解を決めているのです。この場合、機械学習はあくまでも人間のものまねをしているので、正解を作った人間が神様です。ただ、会話の相手からこう聞かれたら、こう返さないといけないという決まりはありません。だから数年前まで、ものまねが難しいという状況でした。

 どのように打開したのでしょうか。
 うまいことを考えた人がいました。例えば、言葉の世界で正解を探そうと思って、主語を見つけたいので主語に全部○を付けてくださいと言うと、やればできますが、お金や人手がかかって大変です。しかし、文字や文章はウェブ上にたくさんあるので無料で集められます。ウェブ上の文章のうち一部の単語だけを伏せ字にして当てさせると、元の文章で「正解」は分かっているので機械にクイズを出せます。これをいろいろな単語でランダムに何兆回とやらせます。
 単語を予測するには単語の意味が分からないといけないし、文脈や文法も分からないとできません。単語を穴埋めするクイズを繰り返し、ものすごい数の学習をさせると、文章を途中まで入力すれば次の単語を予測できるようになります。それを繰り返すと、どんどん文章を作ることができて生成AIになります。非常に単純な仕組みですが、どんなに少なくとも日本語のウィキペディア記事を全て読み込ませるぐらいの学習量が必要だと言われます。  情報源 信頼できるか
 米国の企業「オープンAI」が作成した生成AI「チャットGPT」は何が優れているのですか。

 チャットGPTの一歩前の技術「GPT3」を使い、出力した回答を気に入るか、気に入らないか、○×を人間に付けさせました。たくさん○×を付けてから、今のGPTに、こちらの方がいいらしいよとバイアスをかける追加学習をさせました。その結果、以前はよくあったうそ情報や差別的発言、武器の使い方などの有害な発言が少なくなったと言われています。
 生成AIはあくまでも、世の中にある言葉の重ね合わせです。私は「超・集合知」と呼んでいますが、人間のように、こうだからこうと論理的に考えているわけではありません。また、学習データに答えが書いてあっても、それをそのままコピーするわけではないので、あまり単純な検索には向いていません。下書きを書かせるとか、ブレスト(アイデア出し)に使うとか、「前段階」に向いています。間違ったことを言う可能性があっても「前段階」なら使えます。

 では、生成AIはなぜ、グーグルの検索にとって脅威になるのですか?

 これまでの検索システムよりも自然な文章で、会話スタイルで聞くことができるので、便利に感じると思います。しかし、チャットGPTの返した回答だけを読んでも、作られた回答なので本当かどうか分かりません。必ず1次情報を確認しないと危険です。
 チャットGPTできれいな日本語が作れると、ネット上にチャットGPTで作った文章があふれ、それを検索対象にする人はうその情報も信じてしまいます。必ず人がチェックすべきですが、なかなか労力がかかってできないこともあるでしょう。これは社会的に重大な問題です。
 だから、検証者が必要になり、メディアの意味が大きくなります。AIによってメディアがどのような影響を受けるのか、よく聞かれますが、新聞やテレビなどのメディアは信頼できる情報源になり得るのかが大事になります。

 生成AI自身が情報の真偽を判断することはできないのでしょうか。

 できません。AIもしょせんはインターネットの情報しか見ていません。例えば、ロシアとウクライナが戦争していますが、どこを占領したかというのは現地に行かないと分かりません。あるいは、岸田文雄首相が何かを言った時、その発言が本当かどうかは最終的にはその場で聞いた人にしか分かりません。
 AIによって画像も動画も生成できるようになり、ネット上の情報は作れてしまうので何が本当か分からなくなり、誰を信頼するのかという話になります。

 生成AIを活用するこつはありますか。

 できることはたくさんあります。新しい機能が次々と出て技術進歩が早く、数カ月後には状況が変わっている可能性も高いです。AIで自動化できるのはこれまでブルーカラー的な仕事が多かったのですが、今回は初めてホワイトカラーと言われています。これまで比較的高い給料がもらえていた典型的な事務作業はもちろん創造的な仕事までもが自動化される可能性があり、社会的な衝撃です。
 逆にAIを使いこなせる人が伸びて有利になるでしょう。生成AIは入力方法次第で性能が違います。入力作業「プロンプト」を工夫する新しい職業ができ、プログラマーよりも、そうしたプロンプターの方が給料は高くなるとすら言われています。  先生ではなく〝友達〟
 テストをはじめ、作文や絵のコンクールなどで悪用する事例が出てくるのではないでしょうか。

 生成AIの扱いは「友達」と同じと思ってください。友達は適当なことを言うかもしれないので、友達に聞いた結果をそのまま使ってはダメです。友達に聞いても、ちゃんと自分で確認すれば問題ありません。
 テストをする側からすると、困りますね。誰がAIを使って回答を作ったのか分からないので、禁止しようもありません。本気でAIを使わせないようにするには、紙だけの筆記試験や口頭試問にテストの方法を変えるしかありませんが、全ての能力が筆記試験や口頭試問で測れるわけではありません。
 作文に関しては、コンクールで作品に優劣を付ける時に生成AIで作ったのか見分けは無理でしょう。日本語としておかしいわけではないので、くせがあるかどうかぐらいしか差が出ません。小学生だったら小学生の文章を書くように生成AIに指示すれば、ある程度、文体も調整します。
 ただ、文章の出来は入力方法の工夫によるので、それも使用者の能力と言えるのかもしれません。絵に関して言うと、画像生成AIは期待する画像を得るために、何を入力したらよいのか試行錯誤に時間がかかり、まだ作成が難しいことが多いと思います。

 生成AIを使ってもいい年齢は。

 生成AIがどのようなものか知ってから使ってほしいです。大学生は問題ありませんが、下は高校生ぐらいがギリギリではないでしょうか。とはいえ、小さな子もいろいろなサービスでいや応なく生成AIに触れることになります。必ずしも本当のことを言うわけではないと分かってもらうことが大事。生成AIは正解を教えてくれる先生ではなく、間違えることもある友達だと思って使った方がいいですね。

 かの・よしのぶ 東京大理学部物理学科卒。同大特任研究員などを経て2014年10月から現職。人間の言語をコンピューターで分析する自然言語処理が専門。ソーシャルメディアデータ分析やキャッチコピー自動生成などに取り組む。浜松市中区出身。44歳。

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