生成AIを学校現場で使うのはあり?有識者インタビュー②【賛否万論】

 学校の夏休みが終わりましたが、読書感想文や自由研究など夏休みの宿題に生成人工知能(AI)が悪用されるのではないかと一時、全国的に物議を醸しました。県教委によると、授業での本格的な活用はこれからですが、学校生活に限らず、日常のさまざまな場面で生成AIが使われていく可能性があります。今後、私たちは生成AIとどのように向き合っていけばいいのでしょうか。情報モラル教育が専門の静岡大教育学部准教授の塩田真吾さんに考え方や留意点について聞きました。(社会部・大橋弘典)

塩田真吾さん
塩田真吾さん

学習目的を考えることが大切 静岡大教育学部准教授 塩田真吾さん
 教育委員会や学校から生成AIの利用に関する問い合わせはありますか。
 大半の教員はまだチャットGPTがどういうものなのか、よく分かっていないのが実情ではないでしょうか。今のところ、大きく心配する人も、すごく使えると思っている人もあまり多くないように感じます。

 文部科学省は、夏休みの宿題に生成AIを活用する際の留意点について通達を出しました。読書感想文の作成などに悪用できるのでしょうか。
 昔話「桃太郎」の読書感想文を生成AIに書かせるなど、私たちもいろいろと試していますが、読書感想文は悪用しようと思えばある程度できてしまいます。生成AIの一つ、チャットGPTは、プロンプト(入力する指示内容)をどのように書くのかが重要で、例えば「小学6年生っぽい文章にして」と入力すると、それに近い文章ができてきますし、自分のこの意見を必ず入れてという指示もできます。
 逆に言うと、自分で指示を出さないと良い文章は作成できません。何も考えずに入力するだけでは、意図しない文章や、本のあらすじが出てくることが多くなります。どのような文章を作るのかというイメージをまず持ち、ある程度、完成形をイメージした上で、プロンプトによって完成形に近づけていくという作業が必要になります。どのような情報を知りたいのか、そのためにどういう指示を出せば適切な情報を得られるのかを考えるのがポイントです。何でもいいから読書感想文がほしいという発想では、チャットGPTを使いこなせないでしょう。
効率が全てではない  使いこなすために必要な力は、ネット検索機能とチャットGPTで何が違いますか。
 ネット検索は検索結果から自分でほしい情報を見つけ出す作業が必要です。いろいろなサイトが出てきて、その中から正しいと思う情報を選択するわけです。でも、チャットGPTは答えらしきものを一発で出してくれるので、自分で探す力が要りません。
 ただし、その情報が正しいのかを見抜く力は必要になります。事実かどうか検証するには、チャットGPTが万能ではないと知っておく力と、複数の情報源に当たっていく力が求められるのではないでしょうか。何のためにチャットGPTを使うのかという目的を作り出せるのか、問題設定ができるのかも重要です。

 チャットGPTよりもネット検索の方が考える力は必要になりますか。
 ネット検索はほしい情報にたどり着くまでに時間がかかりますよね。チャットGPTは答えらしきものをすぐに出してくれるので、時間や手間が省けて効率的です。検索のように、複数のサイトを見比べてこちらがいい、こちらのサイトを見ようと考えることもなくなるでしょう。
 しかし、学びは効率的にやることが全てではありません。効率を重視するのであれば、チャットGPTなどの生成AIを使えばいいのですが、効率ではなくて別の力を身に付けたい場合は力が身に付くような別の方法を採用すべきです。
どんな力を付けたいか  生成AIは学校現場にどのようなインパクトを与えますか。
 私は今後、相当大きな影響を与えていくのではないかと思っていますが、ポジティブな面で言えば、これまで教員が担ってきた事務的なこと、議事録を作るとか、資料をまとめるという作業がすごく速くなります。
 学習面でもネット検索と同じようにチャットGPTを使えば、いろいろな情報をすばやく入手できるし、自分の持っている情報を素早くより良いものにすることができます。高校や大学で何か自分で探究していく時、これってどういうことだろうか、どのような先行研究があるのかなどと調べる壁打ち的な使い方や、アイデアを出したり、思考を深めたりする時にも使えるのではないでしょうか。
 また、授業の議論を活性化するために、生成AIに異なる意見を言わせるという手法もあります。例えば、道徳の授業で「私は本当のことを言わなくても良いと思います」という意見は児童生徒から言い出しにくいですが、生成AIに言わせると、児童生徒から賛否の意見が出やすくなります。
 生成AI利用のデメリットはありますか。
 ずるをしようと思えば、自分で考えずに答えだけをビッグデータから拾ってくることができてしまうということです。今までの検索では、ウィキペディア(ネットの辞書)を参照し、どの部分を引用しようかと自分で考えていましたが、チャットGPTの場合、話し言葉風に文章を作ってくれるので、割と何も考えずに答えが出てしまいます。その結果、身に付けるべき力が身に付かないことになります。

 今までもネットの情報を丸写しする事例はあったのでは。
 ウィキペディアを参照しているのと何が違うのか、生成AIを使うとどこまでがずるになるのかは議論の余地があるでしょう。生成AIを使うと力にならないかと言われたら、プロンプトの入力方法を工夫する必要があるので、力になっているかもしれません。
 目的や年齢次第で、私は学校の授業などでチャットGPTを使ってもいいと考えています。「新しい技術」への対応は今に始まった問題ではありません。例えば、算数で言えば、電卓が「新しい技術」として登場してからも、計算問題を解く時に全て電卓を使って計算しましょうとは教えていません。電卓を使う前に基礎的な力、算数的な考え方を身に付ける必要があるからです。一方、学校で電卓を使う場面もあるでしょう。
 読書感想文であれば、なぜ、生成AIの作った文章を丸写しして感想文を書いてはいけないのかが問われます。読書感想文にチャットGPTを使ってはいけないというルールを設定することはあまり意味がなくて、それよりも読書感想文は何のために書いて、どんな力を付けたいのかを考えるルールがあった方が有意義です。
保護者も一緒に考えて  文部科学省のガイドラインには、生成AIの普及で誤情報が増え、情報活用能力がいっそう求められるとうたわれています。
 学習指導要領の解説には、将来の新たな機器やサービス、あるいは危険の出現にも適切に対応できる力を育てると書いてあります。チャットGPTに限らず今後どんな新しい技術が出てきたとしても、きちんと向き合う力を付けましょうという趣旨です。
 チャットGPTとどう付き合うのかではなく、新しい技術とどう付き合うのか、新しい技術にどんなリスクがあって、どうすれば上手に使えるかという視点で考えるべきです。新しい技術の基本的な規約、年齢制限を考えることもそうですし、生成AIは間違えることがあるというリスク、サービスの種類によっては膨大な料金が生じるリスクもあるかもしれません。

 保護者が意識すべきことはありますか。
 学習の目的や、どんな力が身に付くのかということを、もし子どもが分からなければ保護者が教えてあげたり、子どもと話し合ったりしてください。チャットGPTがどう有用なのか、有用でないのかを保護者が一緒に考えてあげることが必要です。AIを使ってはダメだとだけ子どもに伝えても、あまり意味はありません。学習の目的を理解しなければ、AIを使わなければいいのか、では別のものを使ってネットの情報を丸写ししてしまおうと考えます。チャットGPTがいいのか悪いのかではなく、何のための学習なのかが大切だと思います。

 生成AIの登場で教育の在り方は変わりますか。
 生成AIを活用すれば、疑問点をすぐに教えてくれたり苦手分野を克服する問題を出してくれたりして、一人一人の子どもに適したAIチューターが可能になります。基礎的学習はAIチューターに任せて、AIにできないことを学校教育や塾で教えるという形になるのではないでしょうか。単純に知識を教えているような塾は生成AIに代わり、創造力を鍛える塾が残るのかもしれませんが、技術変化が激しく、将来はなかなか見通せません。ただ、この先、5年10年で学習指導要領は、AIを前提にした社会でどんな力が必要なのかを考えた内容に大きく変わるでしょう。

 しおた・しんご 早稲田大大学院修了、博士(学術)。千葉大特任研究員、静岡大助教などを経て2015年4月から現職。文部科学省のICT活用教育アドバイザーや情報モラル教育推進事業検討委員会副座長などを務め、生成AIのガイドライン作成時には有識者の一人としてヒアリングを受けた。41歳。

 次週の賛否万論はチャットGPTでどんな文章が作れるのか、担当記者が試した内容を紹介します。
ご意見お寄せください  チャットGPTをはじめとする生成AIに関して、学校現場や授業で積極的に使うべきなのか、慎重に取り扱うべきなのか、あなたはどう考えますか。情報技術の進歩を踏まえた将来の学校教育の在り方も含めて、幅広い視点の投稿をお待ちしています。
 宛先は〒422―8670(住所不要) 静岡新聞社編集局「賛否万論」係、<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>

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