生成AIを学校現場で使うのはあり?④有識者インタビュー【賛否万論】

 文章などを自動的に作成する生成人工知能(AI)の登場に対して学校現場はどう対応すべきなのかをテーマとして取り上げています。前回までは生成AIや情報モラルに詳しい専門家に意見を聞いたり、生成AIの使い方をイメージしてもらおうと記者がAIで作った記事を紹介したりしてきました。今回は県教委の教育方針を決めるキーマンの一人で教育監の塩崎克幸さんにインタビュー。県教委が作成した生成AIのガイドラインにも触れながら、生成AI活用の在り方や今後想定する教員の対応について聞きました。

塩崎克幸さん
塩崎克幸さん
県教委がオンラインで教員向けに開催した生成AIガイドラインの説明会=7月、掛川市の県総合教育センター
県教委がオンラインで教員向けに開催した生成AIガイドラインの説明会=7月、掛川市の県総合教育センター
県教委が生成AI利用ガイドラインで例示した用途
県教委が生成AI利用ガイドラインで例示した用途
塩崎克幸さん
県教委がオンラインで教員向けに開催した生成AIガイドラインの説明会=7月、掛川市の県総合教育センター
県教委が生成AI利用ガイドラインで例示した用途

 (社会部・大橋弘典)

教員の校務省力化に有効 県教委教育監 塩崎克幸さん
 チャットGPTを実際に使ってみた感想があれば教えてください。
 日本語能力が非常に高く、上手な日本語を出力してきますね。私はいろいろとあいさつする機会があるので、あいさつ文を作成した後により良い内容にブラッシュアップするためにチャットGPTに文章を変えさせてみました。的確に修正されてすごいと思う場合と、肝心な部分が消されて短縮されてしまい、自分で文章を作った方がいいかなと思う場合がありました。

 学校での活用については、どんな利用方法を想定していますか。
 誤りもあるので、小テストなどの教材の素案を作るとなれば、教員が目を通して間違っていないか、生徒にとって分かりやすいかなどをチェックする必要があります。ただ、ゼロから作るよりも途中のステップがかなり省けます。教材作成に限らず、生成AIの活用は教員の働き方改革を進める上で有効な方法になると考えています。
 教員の仕事には授業以外に生徒指導や進路指導などの校務もあります。保護者や一般の人向けに出す通知を作るため、何月何日にこういう行事が行われるという内容をチャットGPTに入力すると素案が出てくるので、自分でさらに精査すればゼロから考える必要がなくなるので校務の省力化につながります。職員会議の議事録を要約させるとか、他にもいろいろな使い方が想定されます。

 文部科学省が7月に都道府県教委に生成AIに関する通知を出しましたがどのように対応しますか。
 教員の活用については、授業と校務のどちらも生成AIを活用しても良いという方針を示しています。ただし、活用する際には研修を一度受けた上で使ってもらう方向で進めています。県立学校の教員には、個々の教員が使う時、記録を取ってほしいとお願いしています。その理由は事例を集めて学校に紹介したいからです。こんな使い方をしてみた、こんな場面で使ってみたという事例を収集し、多くの学校に還元できればいいと考えています。

 教育委員会として授業での生成AIの活用はどのような方針で進めますか。
 文科省は授業での生徒による活用に基本的に慎重ですが、私も慎重である必要があると考えます。思考力低下の危惧だったり、必ずしも正しくない答えが出てきたり、著作権の課題もあります。個人情報を入力した時に流出するリスクもあるし、セキュリティーに関わるものも心配です。事前に教育を何もしないで自由に学校で使うのは危険だと思っています。
 授業での生徒による活用は、文科省が一斉に全校で始めるのではなく、情報活用能力の指導が十分されている学校でパイロット的に試行し、課題や授業のどんな場面で使えるのか検討するとしています。県も同じ方針で、まずは情報活用能力の指導を十分していく必要があると考えています。

 子供が家庭で使用する場合もありますね。
 子供たちは個人のスマホを持ち、タブレットも学校で支給されています。家庭や個人で生成AIを使う場面はなくせないでしょう。授業での使用に慎重だとしても家庭や個人で十分に使える環境にあるので情報モラルの教育を進めていく必要があります。中学生や高校生に対し、生成AIの基礎知識や注意点に関する通知を早めに出していこうと考えています。

 これからの時代、生成AIを使いこなす力も必要になるのでは。
 その通りです。生成AIは質問や指示次第で出てくる答えは違います。自分の中できちんと整理して指示できるのかが問われます。何がダメとか、これをやってはいけないという教育ではなく科学的な根拠を示しながら考えさせていくことが大事です。情報活用能力はいろいろな教科の学習や学校教育のベースになります。県教委は探究活動を推進していて、これも重要な教育の場の一つになると考えます。教員にも生成AIに関して一定レベル以上の知識は持ってもらいたいと考えています。

 生成AIの登場で教育の在り方は変わりますか。
 数年前から言われているのは、知識はAIがより分かりやすく効果的に教えてくれるということ。AI教材は問題の解き具合によって提示される次の問題が変わり、生徒の個々の理解度に応じて異なる問題を提供してくれます。そうなると、教師の役割は何なのかという話になります。
 知識を伝えるという役割は少なくなるかもしれませんが、専門家の研究では、教員はなくならない仕事に分類されています。コーディネーターとして生徒に伴走しながら、より適切な学びの場をつくるような教員の役割は大きくなっていくのではないでしょうか。

教職員向けガイドライン 県教委、活用例と留意点を通知
 県教委は7月に教職員向けの生成AI利用ガイドラインを作成し、県立学校(高校や特別支援学校が中心)と市町教委(小中学校を中心に担当)に通知した。生成AIの可能性に着目して「積極的に利用していく」とする一方、リスクを踏まえて「AIの判断をそのまま使うのではなく、最終的には人間が確認することが求められる」と留意点も記した。
 ガイドラインが対象とする生成AIについて、当面の間はチャットGPTのみとするとし、用途として①文章の要約や翻訳、校正、改善②あいさつ文やメールなどの文面作成③着想を得たりアイデアを発展させたりする―などを挙げた。
 具体的なチャットGPTの活用例として、テスト問題やメールの作成、通知文書や授業で使う調査資料の要約、アイデアのブラッシュアップなど8事例を紹介し、プロンプト(指示文)とチャットGPTの回答文を掲載した。
 7月下旬に開催したオンラインの説明会には、県立学校などの管理職や情報系授業を担当する教員らが参加し、チャットGPTの基本知識を説明する研修動画を見たり、ガイドラインの説明を受けたりした。県教委側は、教職員がチャットGPTを使う場合には記録簿に使い方を記入するように求めた。教育DX推進課の大沢篤課長は取材に「事例を収集するのが目的。教職員の間で共有できるように事例集はブラッシュアップしていきたい」と話す。
 7月のガイドラインは教職員向けだったが、授業で教職員ではなく生徒が活用する場面も考えられる。このため、県教委は別途、チャットGPTを活用する際の留意点などをまとめた生徒向け資料を作成し、9月中にも各県立高校に通知する方針。

 しおざき・かつゆき 掛川市出身。静岡大大学院工学研究科修了後、1984年に県公立高の教員に採用された。科学技術高校長、総合教育センター所長などを経て2020年4月から現職。64歳。

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