静岡・油山温泉2旅館 再開へ強い決意 宿泊客、寄付で激励 台風15号被災

 昨年9月23日の台風15号で土石流が流れ込み、現在も休業している静岡市葵区の油山温泉の2旅館が、以前に宿泊した客らの激励で再開を目指し、準備に取り組んでいる。建物が全壊した「元湯館」は解体を終え、年度末に予定される砂防ダム完成を踏まえて旅館を建て直し、2025年再開を目指す。建物が無事だった「油山苑」は今年11月から食事、24年2月から宿泊を再開予定。温泉の名物だったホタルもこの夏、油山川に再び姿を見せ、「希望の光だ」と関係者に勇気を与えた。

元湯館の解体跡地を見つめる海野博揮社長=20日、静岡市葵区油山
元湯館の解体跡地を見つめる海野博揮社長=20日、静岡市葵区油山
食事提供の再開に向け、厨房機器の搬入を見守る油山苑の大塚祐史取締役(中央)=20日、静岡市葵区油山
食事提供の再開に向け、厨房機器の搬入を見守る油山苑の大塚祐史取締役(中央)=20日、静岡市葵区油山
静岡市葵区の油山温泉
静岡市葵区の油山温泉
元湯館の解体跡地を見つめる海野博揮社長=20日、静岡市葵区油山
食事提供の再開に向け、厨房機器の搬入を見守る油山苑の大塚祐史取締役(中央)=20日、静岡市葵区油山
静岡市葵区の油山温泉


「希望の光」名物ホタル再来
 「被災直後は『全てを失った』と嘆いたが、今は『生きててよかった』と前向きに捉えている」。8月末で解体を終えた元湯館の跡地を見つめ、海野博揮社長(41)は唇をかみしめた。
 1964年に祖母が創業した温泉を継ぐ3代目。新型コロナウイルス禍で密を避けるため、2021年11月から1日2組限定の「愛犬と泊まれる宿」にリニューアルしたばかりだった。昨年の台風15号では土石流の直撃を受け、宿泊客4人はヘリで間一髪救助された。だが建物は基礎部分から激しく損傷し、専門家に解体が必要と鑑定された。
 戦国時代、今川義元の母・寿桂尼が湯治したとされる油山温泉。中山間地の隠れ家的な温泉地で、行くには細い一本道しかない。油山川や道路を埋め尽くす土砂の搬出は難航が続き、さらなる災害防止のため仮設の砂防ダムを設置できたのは台風15号から半年たった3月下旬だった。
 海野社長は被災前から行っていた美容健康オイル製造販売や動画制作などの仕事をしながら再建を模索する。「支援してくれた方々のためにも、焦らず一歩一歩前に進みたい」と話す。
 元湯館の約300メートル下流にある油山苑は、本館1階の厨房(ちゅうぼう)やロビーなどが濁流で浸水したが、11月から予約制で昼、夜の食事を再開し、名物だったイノシシ鍋や松花堂弁当などを提供する予定。今月20日には新たな厨房機器が搬入された。料理を担う大塚祐史取締役(62)は「再開するか迷ったが、お客さんなどの応援が大きかった」と笑顔を取り戻した。
 両旅館は再建に向けた資金を募るためクラウドファンディングを実施。元湯館には544人から計680万円、油山苑には393人から計565万円が寄せられ、「またホタルが見たい」「再開したら泊まりに行くので頑張って」といったメッセージが相次いだ。
 (社会部・瀬畠義孝)

新砂防ダム 来年3月の完成目指す 避難促す警報システムも整備
 昨年9月の台風15号では線状降水帯発生に伴う大雨により、静岡市葵区の油山川上流で斜面が大規模に崩壊して土石流が起きた。土石流は元湯館の上流に設置されていた砂防ダム3基の容量を超えて流下した。県静岡土木事務所は「元々砂防ダムは河川を流れる土砂を想定したもので、山の崩壊まで想定した設計にはなっていない」と説明する。
 さらなる被害を防ぐため、県は昨年10月、土石流発生時にセンサーで感知し、回転灯とサイレンで避難を促す警報システムを整備。3月下旬には仮設の砂防ダムを設置した。10月下旬からは元湯館の約500メートル上流に新たな砂防ダム(幅約50メートル、高さ約15メートル)を着工し、来年3月の完成を目指す。
 斜面が崩れたのは民有地で、県が今後の崩落を防ぐ工事を行うには保安林の指定が必要。県中部農林事務所は保安林指定が可能かを確認する調査を検討している。

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