境内襲った土砂にも花は咲く 静岡・清水区の一乗寺「泥の海」から花壇に 台風15号1年

 昨年9月23日の台風15号で隣接する山から約50トンの土砂が流入し、墓石が埋まるなどの被害を受けた静岡市清水区庵原の一乗寺。今も復旧活動が続く中、流入した土砂を用いて地元の園児らと作った花壇に色鮮やかな花が咲いている。静岡県内外多くの人々の協力を得て復旧作業を続けた1年。住職の丹羽崇元[そうげん]さん(39)は「発災当時はくじけそうになったが、『力になりたい』という皆さんの言葉で前を向くことができた」と感謝する。

地元の園児と花屋の協力のもと流入した土砂で花を植えた花壇=静岡市清水区庵原の一乗寺
地元の園児と花屋の協力のもと流入した土砂で花を植えた花壇=静岡市清水区庵原の一乗寺
被災当時の境内の様子。計5か所で地崩れが発生し、土砂が流入した。
被災当時の境内の様子。計5か所で地崩れが発生し、土砂が流入した。
地元の園児と花屋の協力のもと流入した土砂で花を植えた花壇=静岡市清水区庵原の一乗寺
被災当時の境内の様子。計5か所で地崩れが発生し、土砂が流入した。

 19日午前、寺の境内には穏やかな風が通り抜け、花壇にはニチニチソウやポーチュラカなどが咲き誇っていた。一方、隣接する山の斜面の一部はブルーシートに覆われ、土砂崩れの大きさを物語っていた。寺に土砂が流れ込んだのは、昨年9月23日夜から24日朝にかけて。境内の5カ所に流れ込み、泥の海になった。約30件の墓石が埋没・倒壊した。「土砂が腰の高さまで流れ込み途方に暮れた。翌日に葬儀の予定があり、遺族の思いに応えるために必死に泥をかき出した」。丹羽さんは険しい表情で被災当時を振り返った。
 被災から2日が過ぎた26日からは地元の高校生や業者らがボランティアに駆けつけ、近隣地区に水や救援物資を配布しながら境内の土砂をかき出す作業を進めた。作業に参加したタナカ石材(同市駿河区)の山本達也さん(49)は「(変わり果てた景観に)言葉が出なかった。復旧に1年以上かかると感じた」という。
 寺のSNSを見て県外からもボランティアなど協力の手が差し伸べられ、100人以上の協力があった。11月下旬には土砂の大半の撤去が完了した。
 土砂の一部は希望する農家に配布した。「つらい思いをした人も笑顔の花が咲くように」と願い、今年3月には花壇も整備し、同市清水区の庵原こども園、うさみ花店の協力で流入した土砂を活用して花を植えた。丹羽さんは「園児たちが花に触れて喜ぶ姿を見て力が湧いた」と目を細める。
 現在も残りの土砂のかき出しや損壊した墓石の復旧作業が続く。隣接する山や斜面もお寺の大事な景観の一部と考えている丹羽さん。「協力してくれた多くの人々のためにも、今回の教訓を生かし、山も含めた寺の景観と治水をどう両立させられるか考えていきたい」と今後を見据えた。
 (社会部・鈴木紫陽)

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