こども園計画可決後 変更要望 賛成投じた本人がなぜ【議決権の重み 御前崎市議会㊤】

 「今、計画をやめると余計な混乱が生じる。この件は議員の皆さんも賛成したはずだ」
 5月31日午前8時半、御前崎市役所の市長応接室。市が進めるこども園の新設事業を巡り、見直しを求める市議会(定数15)の正副議長ら7人と向き合った柳沢重夫市長が、いらだつ感情を抑えながら反論した。
こども園の新設計画を巡り、予算案可決後に御前崎市議7人が変更を求めた面会記録書。市長に見直しを迫る文言が並ぶ
 市議会は3月に事業予算を全員賛成で可決したばかり。だが、当時の議長河原崎恵士氏は「住民から不安の声がある」とし、約1カ月後に迫った事業者選定の公募プロポーザルの実施を延期するように求めた。
 7人の市議は定期的に勉強会を開くなど行動をともにするメンバー。この日の4日前に集まった際、既存の幼保こども園3園を統合して民設民営のこども園を新設する事業に対し、住民から不安の声が寄せられたとして市長に計画変更を申し入れることを決めた。他の市議らも「ちょっと計画が稚拙ではないか」「まずは公設でやるべき」などと計画変更の必要性を口にした。
御前崎市の新こども園事業を巡る動き
 議会は本来、予算案や条例案に見直すべき点があれば、議決の前に議論を尽くし、議案を修正または否決しなければならない。議決した事項に従うのは、議員としてのルールといえる。いったん可決した予算を見直す場合は再度、公の場で議論し、補正予算などで修正を図るのが正しい手続きだ。だが、7人は同僚市議8人に見直しの相談を持ちかけることもなく、ひそかに市長に変更を要望した。
 この行動は、関係市議らにとって思わぬ形で表面化した。面会が行われた同時刻、市役所を訪れていたベテラン市議の阿南澄男氏が7人の行動を耳にした。「なぜ、自分たちが決めたことを覆そうとしているのか」。阿南氏は6月の市議会で7人に対し、予算決算審査特別委員会の委員長の立場で「予算を議決した立場としての自覚がない」と猛省を促した。
 これに対し、河原崎氏らはその場で「思慮に欠けていた」と陳謝はしたが、周囲には「市民の声を届けただけだ。他の議員もみんなやっていること」と伝え、あくまで市民の代弁者として正当性を主張した。
 議決当時の議長を含む半数近い市議が、議決後に市に事業の見直しを非公式に要求するのは異例に映る。日頃から市議会運営をテレビ中継で見ている70代女性は7人の行動に対し、「議決権の重みを理解できていない」と痛烈に指摘した。
 一方、要望行動を知らされていなかった市議8人はある疑念を深めた。市が作成した市長と7人の面会記録には市内の特定の業者名が何度も出ていたからだ。「口利きをしているのではないか」。市議会は6月末、原因究明のための調査特別委員会を立ち上げた。
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 御前崎市では新こども園設立事業を巡り、関係予算議決当時の議長らが計画変更を求め、議会が混乱している。一連の問題を振り返りながら、議員の議決権の重みを考える。

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