採決の事業内容理解せず 問われる「議員の自覚」【議決権の重み 御前崎市議会㊥】

 御前崎市のこども園新設事業を巡り、関連する予算案を議決した当時の議長ら市議7人がその後に計画見直しを求めた問題は、市議会内外に波紋を広げた。

7月から18回開いた調査特別委。計13人の参考人が議決後の計画見直しを求めた問題について陳述した=8月下旬、御前崎市役所
7月から18回開いた調査特別委。計13人の参考人が議決後の計画見直しを求めた問題について陳述した=8月下旬、御前崎市役所

 8月22日、市議会調査特別委員会の14日目の会合。「住民が不安を感じていれば、市長に届けるべきだと思った」。参考人席に座った7人のうちの1人、植田浩之市議は見直し要求の意図を説明しつつ、市議の一部だけで要望行動に踏み切ったことには「配慮が足りなかった」と謝罪した。
 予算案の可決は7人を含め、採決に加わらない議長を除く市議全員による賛成だった。このため、要望行動を知らなかった8人の中には、7人が特定業者から働きかけを受け、議決を覆そうとしたとの臆測を抱く市議も出てきた。5月末の7人と市長の面会時に同席した市幹部は「簡単に議決を覆されたら、事業を進められなくなる。見直しを要求されたと感じた」と思い起こす。植田市議は「まさか、ここまで大ごとになるとは思わなかった」と軽率さを悔やんだ。
 7人が周囲の不信感を払拭できずにいたことも、状況を悪化させた。調査特別委の会合で当時の議長、河原崎恵士氏は「住民の不安の声」について詳細を尋ねられた際、「数人の住民と世間話の中で聞いた」などと答え、曖昧さを残した。
 要望後、市内の民間会社が事業参入を目指していることが判明。事業の応募条件の社会福祉法人設立に向け、見直し要望に加わった市議の一人が法人の評議員に就くことを快諾していたことも明るみに出た。
 特別委では、3月の議決の際に「公設と勘違いしていた」と事業内容を理解していなかったと話す市議も現れた。委員会を傍聴していた市民からは「議員は選挙で選ばれた市民の代表。自覚が全く感じられない」(70代男性)と憤りの声が漏れた。
 特別委の会合では、行政手続きの在り方にも議論が及んだ。同社が法人設立に関する審査要綱に明記された市長裁量権に着目し、応募規定の一部について特例的に認めてもらえるように市に依頼していたことが明らかになった。首長の裁量権は政治的な判断を仰ぐためでなく、行政事務手続きを柔軟に遂行するための規定。裁量権を認めた行政文書は他にも存在している。特別委の委員の一人は「口利きの余地となり得るような規定や文言は改善が必要だ」と指摘した。
 6月に発足した特別委は9月までに18回の会合を重ね、議事公開の場で計13人に陳述を求めた。それでも、「まだ真相は究明されていない」との判断から、より強い調査権限を持つ(地方自治法規定の)百条委員会への移行も模索した。一方で、「市議会をこれ以上、混乱させるべきではない」との意見も根強く、百条委設置は見送られた。
 一連の問題を見守ってきた別の70代男性市民は「そもそも議決権の重みを認識できていないことが発端。議員を選ぶ私たち有権者の意識も変えなければいけない」と口元を引き締めた。

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