静岡県と韓国・忠清南道 友好協定10周年 豊富に残る「百済」の遺産

 韓国中部の忠清南道と静岡県は今年、友好協定締結10周年を迎えた。忠清南道は660年に滅んだ古代国家「百済」の歴史遺産が豊富に残る。道内の公州市と扶余郡で9月23日に始まった歴史文化祭「大百済典」に合わせ、駐横浜韓国総領事館の招きで現地の歴史遺産や観光スポットを巡った。
 (浜松総局・白本俊樹)
百済時代に築かれた公山城。2015年にユネスコ世界遺産に登録された百済歴史遺跡地区の一つ=韓国・忠清南道公州市
巡って実感 日本とのつながり  仁川国際空港から車で朝鮮半島を南に約2時間。公州市中心部の錦江新官公園には、大百済典の開幕式を見ようと数万人の来場者が詰めかけた。
百済の民俗衣装姿で行列をつくる市民
百済の王を追悼する式典で舞を披露する市民=韓国・忠清南道公州市
 大百済典は毎年10月に開いている百済文化祭を大規模化した10年に1度の祭典。百済文化の発信を目的に10月9日まで開催し、海外から2万人を含む150万人の来場を目標に掲げ、各地の歴史遺産で当時の行事を再現したパレードや式典などを展開した。開幕式では、大型モニターを備えた屋外ステージに、訪韓した川勝平太知事ら日本や中国の来賓を迎え、花火を盛大に打ち上げて祝った。
大百済典の開幕式が行われた会場。城壁がライトアップされた公山城が見える
 ライトアップされ、川越しに開幕式会場を見下ろす公山城は、日本人観光客も増えているという歴史遺産の一つ。475年から538年まで都となった公州を守るために築かれ、約2・6キロの城壁が残る。佐賀県唐津市で生まれたとされ、今年、没後1500年を迎えた百済25代王「武寧王」らが居住した城だ。
百済時代に築かれた公山城。2015年にユネスコ世界遺産に登録された百済歴史遺跡地区の一つ=韓国・忠清南道公州市
 開幕式当日の午前中、武寧王と王妃の墓「武寧王陵」を訪ねると、武寧王生誕をアクションを交えてコミカルに表現した屋外劇や、歴代の王を追悼する式典が行われていた。老若男女が民俗衣装などに身を包み、町を挙げて百済時代の雰囲気を演出。武寧王陵のれんが造りの墓を忠実に再現した展示館や、遺跡からの出土品を展示する国立公州博物館は、韓国の観光客でにぎわっていた。
 公州は栗の産地としても知られる。公山城の麓の大通りは、栗のスイーツを販売するおしゃれなカフェが立ち並ぶ。スイーツを目的に公州市を訪ねる日本人観光客もいるほど。1個2500ウォン(約280円)のパイはほどよい甘さで、栗の風味を堪能できた。
栗を使ったスイーツを販売するカフェ。公州市は栗の産地として知られる=韓国・忠清南道公州市
栗を使ったスイーツ=韓国・忠清南道公州市
 公州市の中心部から、さらに南へ約30キロの扶余郡は538年に遷都され、百済最後の都となった泗沘があった地。
扶蘇山から白馬江を眺める観光客=扶余郡
 首都防衛の要になった扶蘇山城の眼下に、河川「白馬江(錦江)」が流れる。河口付近は、百済復興を目指して663年に日本・百済連合軍が唐・新羅連合軍と戦った「白村江の戦い」の舞台になった。静岡県とは、駿河の国が百済に援軍を送った縁がある。百済が滅亡した際に3千人の女官が身を投げたと伝わる岩場「落花岩」もあり、クルーズ船で川を渡りながら当時の様子に思いをはせた。
 県と忠清南道は友好協定10周年の記念式典を公州市で開き、両県道の知事がさらなる交流深化に向けて共同宣言に調印した。式典に同席した駐横浜韓国総領事館の金玉彩総領事は日本と百済の深いつながりに触れ、「百済と武寧王を中心にした古代の交流史を理解することで両国の民間交流が進む。武寧王陵で感じた歴史を韓日外交に生かしたい」と語った。 photo03 観光公社統計 日本人旅行者 ほぼ回復  韓国観光公社の統計によると、8月に韓国を訪ねた外国人旅行者は約108万9千人。このうち日本人が国・地域別で最も多い26万3千人(24・2%)を占め、コロナ禍前の2019年8月の約8割まで回復した。実際、移動の航空機には日本人の家族連れや学生らが多く搭乗していた。
 訪韓中、マスクをしている人はほとんど見かけなかった。目立った新型コロナウイルスの影響も感じられず、今回、案内してくれた現地旅行会社の韓国人女性ガイドは「一部飲食店に影響は残るが、コロナがあったか分からないほどまで回復した」と話す。
 ただ、日本と同様にあらゆる物価が高騰しているという。公州市内の飲食店で朝食として注文した家庭食は、キムチやナムル、のり、卵焼き、スープ、白米、お焦げスープなど約10品が卓上を埋めた。テーブルの上に多くの小鉢が並ぶのが韓国料理の特徴だ。 photo03 小鉢が並ぶ韓国料理。都市部では多くの小鉢を提供する店は減っているという=韓国・忠清南道公州市
 価格は1人8千ウォン(約890円)だったが、ガイドによると、韓国内でも珍しい安さ。都市部を中心に大幅な値上げが進んでいるが、地方はやや遅れているという。また、コスト高や手間暇が負担となり、ソウルなど都市部では多数の小鉢を提供する店は減少していると教えてくれた。

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