外出困難者、ICTで広がる就労 東京の接客ロボ、焼津で操作

 テレワークや情報通信技術(ICT)の普及で、外出が不自由なために従来は就労が困難だった障害者や難病患者が在宅で働けるようになり始めた。焼津市の難病患者の女性は東京・日本橋のカフェに設置されたロボットを自宅から操作し、会話で接客する。保険薬局の静岡市内の事業所では通勤が難しい身体・精神・発達障害者12人が在宅勤務している。来年4月から企業の障害者法定雇用率が段階的に引き上げられるのを前に、テレワークの多様化が注目される。

在宅勤務で東京都内のカフェや新潟県内の公共施設のロボットを操作し、接客する「ちい」さん=9月中旬、焼津市(本人提供)
在宅勤務で東京都内のカフェや新潟県内の公共施設のロボットを操作し、接客する「ちい」さん=9月中旬、焼津市(本人提供)
「オリヒメ」を活用した障害者の在宅就労
「オリヒメ」を活用した障害者の在宅就労
在宅勤務で東京都内のカフェや新潟県内の公共施設のロボットを操作し、接客する「ちい」さん=9月中旬、焼津市(本人提供)
「オリヒメ」を活用した障害者の在宅就労


 ビジネスや買い物の男女が行き交う日本橋。カフェのテーブルに置かれた高さ23センチの白いロボットが首を動かし、薄緑色の目で客の顔を見渡すと、明るい声で接客を始めた。「ようこそお越しくださいました。オリヒメパイロットの『ちい』と申します。当店のメニューを紹介致します」
 店の名は「分身ロボットカフェDAWNver.β(ドーン バージョンベータ)」。オリヒメは東京・日本橋の企業「オリィ研究所」が開発したロボットの名称だ。客席で注文を取る卓上型や飲食物を運ぶ自走型(高さ120センチ)などがある。パイロットとは遠隔操作で接客するスタッフのこと。客に自己紹介し、遠隔地から通信していることや自身の障害について説明すると、客は一様に驚く。
 約70人いるパイロットの一人で焼津市に住む女性「ちい」さん(58)は筋ジストロフィー患者で、足の筋肉が硬直して歩けなくなる時がある。以前はパソコン教室のインストラクターなどをしていたが、30代で発症して約20年、通勤を伴う仕事はしていなかった。
 2年前にSNSでパイロット募集を知り、「ロボットの操縦なんて面白そう」と応募した。接客は週1、2回。1日1、2時間に限られるが、ほぼ毎日オンラインで同僚と業務上のやりとりを重ねる。「チームで一緒に働くことで、自分が社会に存在しているという実感が強くなった」とちいさん。天使のような愛らしいオリヒメの両腕を動かして客に話しかけると、「どんなお客さんも好奇心で目をキラキラさせ、会話を楽しんでくれる」という。
 オリヒメは今年1月まで神奈川県鎌倉市に開設された大河ドラマ館で販売商品を紹介するなど、設置は全国に広がっている。ちいさんは現在、新潟県長岡市の先端技術学習施設「ミライエ長岡」のオリヒメでも展示設備の案内を担う。「自宅にいるだけでは全く知ることのなかったことを吸収でき、やりがいがある」と充実感をにじませる。


「生きがいや安心感じる」
 障害者雇用促進法に基づき、一定規模の企業に義務づけられる障害者の法定雇用率は現行の2・3%から来年4月に2・5%、2026年7月に2・7%と引き上げられる。企業にとってテレワークは打開策の一つだが、障害者にどのような仕事を担ってもらうのかが課題になっている。
 全国で約350店舗を展開する保険薬局ユニスマイルは、障害者もテレワークで働ける部署「ワークステーション静岡」(静岡市葵区)を17年に開設した。イラストを活用したポスターや配布物のデザイン制作チームを設け、9人が在宅で働く。
 県中部の30代女性は約5年前、初めての就職が同社だった。肺高血圧症で感染症のリスクから通勤が困難だったが、専門学校で学んだデザイン技術を生かして在宅で働き始めた。「給料を稼げると生きがいや安心を感じる。もっとスキルを磨きたい」と意欲を示す。
 同区の女性(33)は統合失調症で人混みが苦手なため通勤は難しい。週5日、1日7時間在宅勤務し、部署の打ち合わせはオンラインで行う。女性は「能力や働く意欲があっても障害で働けなかった人もいる。就労の窓口が広がるのは素晴らしいこと」と歓迎する。
(社会部・瀬畠義孝)

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