記者コラム「清流」 豊かな苦しさ

 80代の女性に終戦直後の学校生活について聞く機会があった。隣のクラスの授業がわかるくらい薄い壁の教室やニシンの缶詰が出た給食。さまざまな思い出を振り返っていたが、手作りの人形劇や友人が詩を書き先生が作曲した学級の歌など、クラスで取り組んだ行事を詳しく話してくれた。
 苦しい時代だったにもかかわらず明るい表情で語っていた。不自由な環境下ではどうしたら楽しくなるか、仲間と工夫してよく考えたという。「親も生きるのに精いっぱいで子どもにまで構ってはいられなかった」。寂しさもあったと思うが、仲間と過ごした充実した日々が伝わってきた。
 「何もないのは楽しかった。何でもあるのは苦しい」。オンラインゲームなど直接会わなくても交流できる現代。今を生きる子どもたちを憂いていた。
(生活報道部・伊藤さくら)

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