「誰もが他人に恋愛や性的に惹かれるわけではない」 人口約1%のアセクシュアル 認知度低く、当事者「存在を知ってほしい」

 「誰もが他者に対して恋愛や性的に惹かれるのが当たり前の社会に、息苦しさを感じる」―。LGBTなど性的少数者の分類の一つで、誰に対しても性愛感情を抱かない人たちを「アセクシュアル(アセク)」という。人口全体の約1%とされる性的指向だが、日本国内での認知度は低い。当事者らは「周囲からの偏見に苦しんだり、周りとの違いに自己嫌悪に陥ったりすることがある」と話し、「アセクシュアルという存在を多くの人に知ってほしい」と訴える。
 「好きな人がいないのはおかしい。親不孝だ。病院に行った方が良い」。静岡市内に住んでいた40代の女性教員は約20年前「他者に性的欲求や恋愛感情を抱かない」ことを友達グループとの食事の場で伝えたが、口をそろえて非難された経験があると明かす。予想外の反応に女性は「本当に親不孝なのかと悩み、帰り道のバスの中でも1人で泣き続けた」と振り返る。

 ◇当事者の葛藤
 女性は他人に対し、性的に惹かれた経験は一度もないという。恋愛の〝好き〟という感情が分からず、周囲に相談すると「かまととぶって」となじられた。「同性が好きなのか」「セックスしたら変わる」とも言われたこともあった。
 転機が訪れたのは25歳。偶然見た本でアセクシュアルの文字を見つけて、全身に衝撃が走った。「これだ!」。今までのモヤモヤに対して答えが見つかったと直感し、「自分一人だけではないんだ」という安心感を得たという。

 ◇自認への道のり
 アセクシュアルを自認するのは難しいと話す人もいる。静岡県西部に住む20代の当事者は小学生まで好きな異性がいたが、性的に他者に惹かれた経験はないと吐露する。同じ悩みを持つ当事者と話したり、異性や同性の恋愛話を聞いたりして性的指向を自覚し始めているというが、「アセクシュアルをはっきり自認できてはいない」と心境を語る。「(性的指向が)無いことは証明できない。他人の恋愛話を聞き、自分の〝好き〟の可能性を一つ一つ確認していくしかない」と冷静に受け止める。
 大阪大大学院でアセクシュアルなどの研究や実態を調査している三宅大二郎さん(32)は「性的指向の変化や自認するタイミングは誰しもが分からない」と指摘し、「人それぞれの違いを認めることが大事だ」と語った。
支援団体 2022年調査結果を公表  アセクシュアルをはじめとする多様なセクシュアリティーの調査研究や啓発を行う団体「As Loop(アズループ)」(三宅大二郎調査代表)は実態把握のため、当事者らを対象にしたオープン型ウェブ調査の2022年結果を公表した。  20年に続いて2回目の調査。22年6月1~30日に全国の14~62歳のアセクシュアルや、関連するセクシュアリティーを自認する、またはそれに近いと思う人などを対象にアンケートを実施し、2318人から有効回答を得た。
 結果によると、自分と特別な関係を約束した人「パートナー」について「恋愛関係かつ性的関係の〝ある〟パートナーなどを望むか」という問いに、「望まない」との回答が71・8%を占めた。「恋愛関係も性的関係も〝ない〟パートナーなどを望むか」との質問の答えには「1人、パートナーを望む」が最多の43・9%だった。
「生きる中で不安に感じる理由について」(複数回答可)では、53・0%が「周囲に自分のあり方が理解されないこと」を挙げ、42・2%が「恋人/パートナーを持たない生き方をすること」と続いた。
 同団体はアセクシュアルを自認する人やそれに近いと思う人らが、パートナーがいることを望む回答が一定数あったことは興味深い点だったと指摘する。

アセクシュアル 性的指向の一つ。無性愛、Aセクシュアルともいう。「ア(A)」は打ち消しの意。他者に性的に惹かれない人を表すほか、他者に恋愛感情を抱かない「アロマンティック(アロマ)」を含めた意味で使う場合もある。性欲を持たない「無性欲」や性的行為に嫌悪感を抱く「性嫌悪」、宗教的な「禁欲主義」とは異なる。厚生省の研究グループが2019年に大阪市で行った無作為調査では、対象者全体の0・8%が該当した。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞