時論(11月12日)みんなで子どもを支えないか

 子どもだけの留守番などを放置による虐待と定める埼玉県虐待禁止条例の改正案が同県議会に提出されたものの、子育て世代などから「負担が大きくなる」との批判が殺到し、提出した自民党埼玉県議団は撤回に追い込まれた。
 滋賀県では東近江市長が「フリースクールは国家の根幹を崩してしまうことになりかねない」「不登校の大半の責任が親にある」などと発言し、批判の声が広がった。
 いずれも実態把握や配慮を欠く内容で、批判は当然と言える。今回の改正案や発言から見えるのは、子育ての責任についての、家庭への過度な押し付けだ。日常的に大変な思いをしている保護者や子どもたちを、さらに追い詰めることになるという想像力は働かなかったのか。
 改正案は「放置」を見つけた場合は通報も義務化する内容で、県議団の議会での説明では留守番のほか、子どもだけの公園遊びや集団の登下校も放置に当たるとされたというから驚く。これでは、誰もが条例違反になりかねない。
 不登校の小中学生は近年、過去最多を更新し続け、文部科学省の調査では2022年度、全国で30万人に迫った。不登校の要因はさまざまで、17年施行の教育機会確保法は不登校自体を否定しないことをうたい、民間のフリースクールも受け皿としての役割が大きくなっている。東近江市長の発言は、法の趣旨から逸脱し、フリースクールの存在意義もないがしろにしている。
 政治や社会を構成するみんなが力を合わせ、子どもを守り、学びを支えたい。自己責任論が大手を振り、当事者の孤立を招くようでは、加速する少子化の流れは変わらない。 
(論説委員・川内十郎)

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞