不登校でも「学校」に行かせるべき?② 関係者インタビュー【賛否万論】

 法的な縛りがなく活動の自由度の高い民間のフリースクールが、小中学校に通えない子どもの受け皿として注目を集めています。学校とは異なる空間で子どもの自己肯定感を高め、心のリハビリの場になっています。ひきこもりの支援に長年携わり、2020年に静岡市葵区で不登校の中高生向けに居場所を提供する「きみのスペース まんま」を開設した黒川彩子さん(43)に、子どもが不登校になる背景やフリースクールの実情を聞きました。
 (社会部・大橋弘典) photo03 黒川彩子さん  一斉教育の限界が来ている ひきこもり支援経験のあるフリースクール代表 黒川彩子さん  フリースクールの定義や位置づけは。
 定義は特に決まっていません。活動内容はそれぞれの施設ごとに違い、幅も広いです。学校に通わずにフリースクールに通った場合でも、制度上は小中学校長の裁量で出席扱いにすることが可能です。私の運営するフリースクールでは、子ども一人一人に対応した報告書を学校に毎月提出しています。学校との連絡は密に取っていて、フリースクールの状況を見に来てくれる教員もいます。一方で、教育委員会や校長の考え方次第で出席扱いの判断が異なる場合もあります。
 フリースクールを設立したきっかけは。
 ひきこもり支援を長くしている中で、子どもの頃から生きづらさを感じていた人に数多く出会いました。学校に通わず一日中家で過ごすぐらいなら、別の居場所を作ってあげたいと考えたのがきっかけです。子どもが自宅以外で過ごすことで、親子の関係も良くなります。親だけで抱え込まないように、学校以外に親が相談できる場があった方がいいとも思いました。
 米国で生活した経験もあるそうですが、海外の状況はどうですか。
 欧米では家で学習するホームスクーリングが認められていたり、飛び級も当たり前だったりして、日本よりも個性が重視される傾向があると感じます。日本も飛び級の制度はありますが、使ったという事例はほとんど聞きません。米国のまねをすればいいとは思いませんが、日本は個性重視の教育をうたいながら実態はそうなっていないのではないでしょうか。
 日本の学校教育に問題があるのでしょうか。
 学校教育を否定するわけではありません。日本の学校には運動会や合唱コンクールなどみんなで一斉に活動する行事があり、みんなが一緒に活動することが美徳とされる面があります。集団で動く部活動や委員会活動も重視します。集団生活の経験値は学校に通う方がフリースクールに行くより高いでしょう。一方で、義務教育を担う小中学校の教員は一斉教育を実現しなければいけない立場なので、公平や平等という観点を重視し、学校には決まり事が多くなります。子どもたちの中には本人の特性で一律の教育や決まり事が合わない子もいます。日本の公教育はうまくできていますが、不登校の子が増加している背景として、一斉教育の限界が来ているとも言えます。 photo03 スタッフと料理づくりに取り組む子どもたち=11月上旬、静岡市葵区のフリースクール  子どもたちが不登校になる背景には何があるのでしょうか。
 まず知ってほしいのは、学校に行けるのであれば行きたいと思っている子が多いことです。不登校の子がゲームをしたりネット動画を見たりする場面が強調されて、サボっていると捉えられることがありますが、決してサボっているわけではないのです。不登校の子はいいかげんなのではなくむしろ非常に真面目で、完璧を求めるあまり、学校生活で不適応を起こすケースも多々あります。特性上、大きな集団が苦手でコミュニケーションがうまく取れず、一斉に何かをすることに気持ちが付いていかない子もいます。そのため、教員に叱られたり、同級生とうまく付き合えなかったりして自己肯定感が低下してしまう子も多いです。相手に追い詰められるような深刻ないじめまでいかなくても、SNSで悪口を書かれるなど、小さないじめをきっかけに学校に行きたくないと思うようになるケースもあります。
 学校とは異なる空間としてフリースクールが必要な理由は。
 小中学校の教員が不登校の子に対応した場合、学校に戻すことを目標としてしまい子どもが余計に学校に行きたくなくなるケースがあります。また、学校内の別室登校や教育委員会が設置する教育支援センター(適応指導教室)は、活動内容やスタッフの役割が学校に近いので、それが合わないという不登校の子もいます。不登校の子を学校に戻す発想ではなく「学校に行けないなりにできることをやれば良い」のではないでしょうか。学校に行きたい気持ちが強く、少し頑張れば行けるのであれば学校復帰を目標にしても良いと思います。でも、学校に執着する必要はなくて、苦しんで通うぐらいなら、無理する必要はないと私は考えています。
 子どもが不登校になった場合、保護者の役割をどう考えますか。
 フリースクールのような場につなぐまでが保護者の役割です。大人は居場所を探すことができますが、子どもは自分で探すことはできません。特に思春期の子は保護者だけで対応するのは難しく、保護者だけで問題を抱え込むと長期化する場合もあります。共働きの家庭が増えているとはいえ、子どもと接する時間が多いのは圧倒的に父親よりも母親です。子どもが不登校になると、母親は自分の育て方が悪かったのかと悩みます。子どもだけでなく親自身が相談する場も必要です。そのため、親の相談に応じたり、不登校の子の親同士で話をする会を開いたりするフリースクールもあります。
 滋賀県東近江市長のフリースクールや不登校に関する発言が物議を醸しました。社会全体の理解は広まっていますか。
 時代とともに考え方は変わっていますが、学校に通わせるのが当たり前という考え方は根強く、不登校をおおっぴらに言えない雰囲気はまだあります。保護者や子どもたちも学校に行っていない後ろめたさを常に持っています。学校に通わせるのは親の責任だと考えている祖父母に対し、子どもが不登校になっていることを言えないという保護者もいます。
 フリースクールの数は足りていますか。
 不登校の子が増加し、どの支援機関ともつながらずに家庭で孤立している子が相当な数いるとも言われます。そういう意味では、フリースクールの数はまだまだ足りていません。運営が難しいのでなり手が少なく存続が大変だという要因もありますし、教育委員会や学校によってはフリースクールの周知に積極的でなく、必要な家庭に情報提供が届かない面もあります。私自身はフリースクールが完全に学校の代わりになるとは考えていませんが、まずはその子と家族が元気になる居場所となり、それから先のことは一緒に考えていく、それがフリースクールの存在意義だと思います。
 くろかわ・あやこ 静岡市葵区出身。高校卒業後に渡米し、心理学を学ぶ。帰国後は横浜市の若者自立支援団体で不登校やひきこもりを支援。静岡市ひきこもり地域支援センターの相談員を経て、2020年に同区にフリースクール「きみのスペース まんま」を開設した。
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 次回も同じテーマで関係者インタビューを掲載します

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