時論(12月3日)博物館に見た文化政策の貧困

 国立科学博物館(東京・上野)が新型コロナ流行などによる資金繰り悪化を受けて行ったクラウドファンディング(CF)は、約5万7千人から約9億2千万円が集まった。金額と支援者数は、国内CFでは過去最多だったという。
 オリジナルの図鑑や普段入れない収蔵庫ツアーなど返礼品の魅力はあったにせよ、多くの人が科博に関心を寄せ、当面の危機を回避したことは大きな成果だ。だが、ここで浮き彫りになった国立の施設でさえ財政的に窮地に陥り、市民の支援に頼らざるを得ない現実は、国の文化政策の貧困さを改めて露呈させたと言える。
 1877年創立の科博は約500万点に上る標本や資料を収集、保存する、日本で最も歴史のある博物館の一つだ。コロナ禍で入館者が激減したところに空調設備にかかる光熱費の高騰が直撃し、コレクションの管理などが困難になった。
 科博は独立行政法人で、国からの運営費交付金は、国の財政状況の厳しさを背景に近年、漸減傾向にある。展示や物販の魅力、発信力などを高め、自主財源の確保に努めることは重要だが、標本や資料の管理などの基本業務は国が責任を持つべきではないか。
 そもそも、日本の文化政策予算は年1千億円程度で推移し、諸外国に比べて少なく、政府予算全体に占める割合も0・1%程度と低い。自治体が博物館に充てる予算が、2015年度は1993年度の3分の1以下に落ち込んだという調査結果もある。
 昨年の博物館法の改正で、博物館は文化観光の推進も担うことになった。各館は知恵を絞り、行政は地域振興の拠点としても博物館を重視し、支援してほしい。
(論説委員・川内十郎)

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