農産物の品種改良を高速化 沼津出身・野秋CEO、独自技術で世界に挑む 第1弾はイチゴ

 沼津市出身の野秋収平CEO(30)率いる農業スタートアップCULTA(カルタ、東京)が、高付加価値の農産物ブランド創出と世界展開に挑んでいる。育種(品種改良)を高速化する独自技術を生かして、各地域の環境に適応した新品種を開発し、現地生産した農産物を周辺の消費者に届ける。まずは東南アジアでイチゴを販売する計画で、マレーシアで試験栽培を始めた。

イチゴの育成状況を確認する野秋収平CEO=11月下旬、沼津市のAOI―PARC
イチゴの育成状況を確認する野秋収平CEO=11月下旬、沼津市のAOI―PARC


 米経済紙「フォーブス」日本版で「世界を変える30歳未満30人」に選ばれた野秋CEOは「適地適作で生産者と消費者の両方を幸せにする。おいしい農産物なら日本だと、世界中に広めたい」と意欲を示す。
 農産物のゲノム(全遺伝情報)と性質データを蓄積し、AI(人工知能)で交配の有用性などを予測する。温度湿度や光量を管理できるAOI-PARC(沼津市)の次世代栽培実験装置で生育を試みる。担い手の勘に頼って組み合わせ、屋外で育成する従来型だと約10年を要した品種改良が2~3年でできるケースもあるという。
 サツマイモ農家の孫として育った。東大在学中に初めて赴いた海外で食べたトマトの質の低さに衝撃を受け、「食は日本の強み。世界で勝てる」と2017年に起業した。当時研究していた農産物の色や形を数値化する技術が品種改良の高速化に役立っている。
 世界的に評価の高いイチゴを最初の生産物に選んだ。年間を通して日照時間が一定のマレーシアでも開花しやすく、多湿な気候でも病気にかかりにくい新品種の開発に取り組む。有望な新品種候補の生産を試し、25年4月の量産を目指す。既に日本の食品会社や現地カフェチェーンから仕入れの打診が届いているという。日持ちが長いイチゴを日本国内で生産し、輸出する計画も進めている。
 サツマイモなどの育種にも当たっている。「農業を耕す」を意味する英語の頭文字を取った社名「CULTA」をそのままブランド名にする予定。「おいしい日本」の代名詞にする考え。
 (東部総局・矢嶋宏行)

生産者/消費者/地球環境 「三方よし」のビジネス目指す
 「カルタ」は協力農家の指導などの生産管理や販売まで手がける。野秋CEOは「なるべく高単価で取引を維持する販売戦略を立てる」と強調する。生産者と消費者、地球環境の「三方よし」のビジネスを志す。
 農家とは契約栽培の形を取り、農産物は決められた価格でカルタが全て買い取る。大学時代から、前向きな姿勢を持つ生産者と交流を重ねてきた野秋CEOは「農業を盛り上げるには農家の人と作るべき」との思いを強くした。
 生産地の近くで販売し、輸送のコストやエネルギーを削減する。その分、販売価格を抑えて「手に届くぜいたく」を提供する。

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