浜松の新野球場周辺まちづくり にぎわい創出に期待高まる【ニュースを追う】

 スポーツや関連施設を中心とした地域振興が全国的に注目される中、浜松市が、県が遠州灘海浜公園篠原地区(同市西区)に整備する野球場施設周辺のまちづくりに向けて本格的に動き出した。10月下旬には市議会、浜松商工会議所、市自治会連合会とつくる「新野球場建設促進期成同盟会」で、スポーツ施設を核としたまちづくりの成功事例や課題を学ぶため、北海道を視察。野球場施設近隣地への「道の駅」設置に関する調査も開始し、中野祐介市長は市議会11月定例会本会議で、年度内に整備候補地を選定する考えも示した。視察への同行取材などを通じて、現状やまちづくりに必要な視点を探った。
道の駅 整備向け着々 県が野球場を整備する遠州灘海浜公園篠原地区周辺。トビオ(写真奥)を含めたにぎわい創出が期待されている=6日、浜松市西区 遠州灘海浜公園(篠原地区)、トビオ 浜松市総合水泳場  「県西部のスポーツの一大拠点になり、浜松だけでなく、県内全域にスポーツ振興やにぎわい創出の波及効果が期待できる。スポーツ施設を核としたまちづくりに取り組む」。
 4日に行われた浜松市議会11月定例会の一般質問。中野市長は県が整備する野球場施設を中心とした地域活性化に向けた意気込みを語り、整備を検討中の「道の駅」について、年度内に候補地などを選定する方針を明らかにした。
 施設建設予定地沿いの国道1号は掛川、湖西両市間約60キロにわたって道の駅の「空白地」になっている。地元自治会や浜松商議所の設置要望などを受け、市は本年度当初予算に調査費を初めて計上。現在は交通環境や地質などの現況調査、民間活力導入の検討などを進め、今後は全国事例の調査に着手する予定だ。
高塚駅近辺の振興  中野市長は「単に施設を造って終わりではなく、どのようなまちづくりを進めるのかを考えることが重要だ」との認識を示し、最寄りのJR高塚駅までのにぎわい創出も見据える。駅から同地区までは約2キロの距離。中野市長は「この道のりを徒歩で楽しめる方策も研究したい」との考えを示す。
 予定地周辺は無秩序な市街化を防止するため、新たな開発が制限される市街化調整区域に指定されている。ただ、国が幹線道路周辺の規制緩和を検討していることなども踏まえ、市は同地区の市総合水泳場「トビオ」との連動、規制緩和に伴う企業誘致を含め、まちづくりのビジョンを広げる。
多目的ドーム切望  期成同盟会は10月、県に施設の早期整備を要望した際、要望書には「野球場」ではなく、「多目的ドーム型スタジアム」という名称を初めて使った。プロ野球が開催可能な2万2千人規模の施設を求めるものの、県が想定するプロ野球の試合数は年1回程度。にぎわい創出に向け、プロ野球だけでなく、天候にかかわらずさまざまなスポーツやイベント、コンサートを通年開催できる多目的施設を求める意向を明確化した。
 これに対し、県はドーム型や照明設備のない屋外球場を軸に、規模や構造を絞り込む作業を進めている。2024年6月の基本計画公表に向け、県議会2月定例会で計画素案を示す方針だ。川勝平太知事は期成同盟会に、「ドームの方向で固まりつつある」と漏らしたが、県の担当者が即座に「いろいろな手法を県議会に示し、意見を聞いて進めたい」と修正する場面もあった。県議会での議論の曲折も予想される。
根強い反対意見も  一方、同施設を巡っては、夜間照明がアカウミガメの生態に与える影響や遠州灘沿いに立地する防災面、最大510億円とされる膨大な整備コストなどの観点から、ドーム型の整備や、施設の建設自体に反対する意見も根強く残る。
 利用料もネックで、県の試算ではドーム型を採用した際には3時間で18万7千円。県内アマチュア野球団体からも「料金が高額になると利用しづらい」などと懸念の声が上がる。
 ドーム型に反対し、複数の屋外球場の一体的整備を求める市民団体「新球場と浜松百年の計を考える市民の会」の福井晃代表は「ドーム型は採算が取れない。幅広い人が安く使える施設を」と強調し、「津波の不安も払拭されていない。利用者が安心できるよう議論を進めてほしい」と述べた。
北海道視察 北広島・Fビレッジ 球場核に究極の地方創生 Fビレッジ内の農業学習施設を視察する中野祐介市長=10月下旬、北海道北広島市  「究極の地方創生という位置づけだ」。新野球場建設促進期成同盟会が10月下旬に視察した北海道北広島市。浜松市の中野市長や浜松商議所の斉藤薫会頭らを北広島市役所に迎えた上野正三市長は、プロ野球日本ハムの新球場「エスコンフィールド北海道」の誘致に伴うまちづくりについてこう思いを語った。
野球開催日以外も多くの人でにぎわうエスコンフィールド北海道  人口約5万7千人の北広島市は西に隣接する札幌市のベッドタウン的存在。「主な観光もゴルフくらいだった」(上野市長)が、新球場誘致を契機としたまちづくりによって一躍、全国から多くの人が訪れる注目の自治体になった。
 市と日本ハムは球場を核に周辺一帯の約32ヘクタールを「北海道ボールパークFビレッジ」として開発。市が土地用途などを変更した上で日本ハム側に一括貸与し、両者が協議して誘致施設を決定する形で運営する。マンションやホテル、農業学習施設、こども園などが立ち並び、野球開催日以外も買い物やレジャーが楽しめるエリアに整備した。所在町名もブランド発信を狙って「Fビレッジ」に変更したほどだ。
 3月中旬のFビレッジ開業から9月末までの来場者数は303万人と、年間目標の300万人を半年で突破。このうち、33%が「野球観戦以外」で来場した。修学旅行先としての引き合いも強く、北広島市のみならず、北海道の新たなシンボルとして地域活性化の起爆剤になっている。
 官民連携で球場を整備する北広島市の「ボールパーク構想」。球場誘致の責任者を務めた川村裕樹経済部長は「社会的課題の解決による地方再生という観点を重視した」と振り返る。全国の自治体と同様、少子高齢化や人口減に伴う税収の減少、活力低下、都市機能の流出といった課題を抱える中、新球場の整備によって地域の魅力を高め、人口増や企業立地を促進することで持続可能な都市の実現を目指したという。
 北海道の活力向上拠点と位置づけたFビレッジのテーマには「子供」「持続可能性」「パートナーシップ」を掲げた。球場は野球開催日でも小学生以下は入場無料。災害時の広域避難場所としての機能も備えたほか、近隣市町や企業など38団体で連携組織を立ち上げ、北海道の魅力向上に向けた協議を継続して進めている。
 今後は医療系大学のキャンパス移転、シニア向けマンションの建設を控え、最寄りのJR北広島駅前では大規模な再整備事業も始まる。市全体への経済波及効果に加え、定住・交流人口の増加、防災機能の強化、雇用促進、特色ある教育環境の提供など市の目指す都市像にもつながっている。
 川村部長は「Fビレッジで働きたい、第二の人生を過ごしたい、という人も多く、さらなる投資を呼び込んでいる」と強調。その上で「球場をきっかけにしたまちの新たな価値を、市全体、北海道全体に還元するため、今後も施策を進める」と語った。

 (浜松総局・宮崎浩一) 

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