袴田巌さん再審開始 「5点の衣類」ヤマ場へ【追跡2023①】

 2023年が終わる。長く閉ざされていた袴田巌さん(87)の再審の扉が開かれ、5回の公判が行われた。静岡市清水区の国道1号静清バイパスでは立体化工事中の橋桁が落下し作業員2人が死亡。6月の台風2号では県内各地で大きな被害が出た。4月の統一地方選で静岡、浜松の両政令市に新しい市長が誕生。サッカーJ1復帰を目指した県内J2チームは明暗が分かれた。悲喜こもごもの今年のニュースを振り返り、その後を追った。
やり直しの裁判が始まった今年1年を振り返る袴田巌さんの姉ひで子さん(中央)=20日、静岡市葵区 「良い年でした。何年かかろうが、良い年に向かって頑張っている。だから、来年はもっと、素晴らしい年になると思っている」
 現在の静岡市清水区で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして死刑が確定した元プロボクサー袴田巌さんの姉ひで子さん(90)は20日の記者会見で、この1年をそう振り返り、来る年への期待を隠さなかった。
 事件の発生から57年、裁判のやり直し(再審)を求めてから42年。ようやく重い扉が開き、10月に静岡地裁で再審公判が始まった。
 検察側は有罪立証を維持し、この日の第5回公判でも袴田さんの犯人性と整合する事情が複数あると主張した。ひで子さんは「今は反論することが大事。生きている限り頑張っていく。無罪を勝ち取れると思っている」と意に介さない。
 地裁は当初、24年3月の結審を目指す意向を示していたが、ずれ込むとみられる。袴田さんの「犯行着衣」とされ、最大の争点となってきた「5点の衣類」に付着した血痕の色を巡り、法医学者の証人尋問というヤマ場を控える。検察側の論告と弁護団の最終弁論は5月との見方もあり、法曹三者の調整は公判と同時並行で進む。
 袴田さん本人は心神喪失状態にあると判断され、出廷が免除された。ひで子さんは、弟の近況に触れ「しっかりしているようなことを言うこともあるんです。でも、また元に戻ってしまう。その連続。このままでいいから、なるべく長生きさせたい」と思いやる。
 再審公判では、刑事訴訟法の再審規定(再審法)の不備も浮かび上がる。5点の衣類の発見直後のカラー写真や取り調べの録音テープ、証言の数々―。弁護団の冒頭陳述には「(こうした)重要な証拠がなぜ、40年以上も隠されていたのか」との言葉がたびたび現れる。
 小川秀世事務局長は20日の会見で強調した。「第2次再審請求審で初めて開示された証拠が再審公判でも力になっている。検察官が(開示するかを)恣意(しい)的に判断する状況は絶対に変えなくてはいけない」。再審判決が法改正の機運を高める好機になると考えている。
 (社会部・佐藤章弘)

 <メモ>袴田さんの第2次再審請求審で東京高裁は3月、再審開始を認める決定をした。捜査機関によって証拠が捏造(ねつぞう)された可能性が「極めて高い」と言及。検察側が特別抗告を断念し、再審開始が確定した。死刑囚としては5例目のケースとなった。

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