静岡県西部、台風2号で記録的豪雨 爪痕今も...復旧は道半ば【追跡2023④】


 記録的な豪雨がもたらした深い爪痕は、半年がたった今もはっきりと残っていた。6月に県内を襲った台風2号。磐田市を流れる敷地川は昨年の台風15号に続いて堤防が決壊して氾濫が発生し、浜松市内では山間部を中心に土砂崩れが相次いで発生した。いずれも復旧までは道半ばだが、活気を取り戻そうと動き始めた被災者もいる。
本格復旧が続く敷地川の決壊箇所=19日、磐田市
 「やらなければいけないことが多過ぎて、手の施しようがなかった」。柿や白ネギ、米を生産する柳沢重博さん(62)=磐田市=は苦しい胸の内を明かした。わずか1年足らずで2度の天災。あたり一帯は濁流にのみ込まれ、田んぼに水を供給する施設も壊れた。「米作りができなくなり、農業を辞める人が相次いだ。前年に加えて台風2号が決め手になった」と振り返る。
 昨年の氾濫で自宅は床上まで水に漬かり、収穫目前の農園は土砂で埋まる被害に見舞われた。「復旧作業を最優先に進めたため、他の作物の世話をする余裕がなくなってしまった。気がつくと収入が途絶え始めていた」と肩を落とす。周囲では転居や引っ越しの準備を進める人も少なくない。
 「専業農家だから逃げることはできない」。逆境の中、地元の老舗菓子店と連携して規格外の柿を使ったプリンを開発した。11月に販売すると、市内外で評判を呼んだ。「今できることを全力でやる。歴史ある敷地の柿の知名度を上げ、伝統を途絶えさせない」と前を向く。
 30代男性が亡くなった浜松市北区引佐町渋川の土砂崩れ現場では、崩落した土砂約2500立方メートルが撤去され、ブロック積みが崩れた市道の工事も間もなく始まる。ただ、同町に移住して地域活性化に挑んだ若者を失った住民の心の傷は癒えていない。男性とともに草刈り活動などを行っていた松本由孝さん(74)は「作業する度に(男性との)思い出がよみがえり、今でもさみしい気持ちになる」と打ち明ける。
折れた電柱や切れた電線が残る被災現場=20日午後、浜松市北区引佐町
 渋川の現場から南西に約5キロ離れた別の被災箇所では、空き家の敷地内に折れた電柱、切れた電線などが生々しく残されており、土砂崩れの威力を物語っていた。市によると、本格的な撤去は年明け以降になるという。災害復旧の進捗(しんちょく)状況には差が生まれている。
 (磐田支局・崎山美穂、細江支局・大石真聖)

 <メモ>台風2号は6月2日から3日朝にかけて活発な梅雨前線を伴い県内に猛威を振るった。中部と西部で線状降水帯が発生。土砂災害や浸水害が相次ぎ、浜松市と磐田市で2人が死亡、1人が軽傷を負った。建物被害は県西部や沼津市を中心に全壊3棟、半壊16棟、一部損壊39棟、床上浸水176棟、床下浸水248棟(12月20日時点)。県は敷地川の堤防が決壊した磐田市に災害救助法を適用した。

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